新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

あきらめないで欲しかった

 本書は、元大阪府知事大阪市長、今はTVのコメンテーターになってしまった橋下徹氏と、堺屋太一先生の共著。2011年の発表で、橋下氏はまだ大阪府知事、1期を務めて財政再建にめどを立てたものの、大阪市の平松市長らと対立し「大阪都構想」を練り上げているところである。

 

 この後大阪市長選で現職を破り「大阪維新の会」の勢力も増えて、本書に言う「鉄のトライアングル」を相手取った改革を続けるも、「都構想」を問う住民投票に敗れて政界を去った。跡を継いだ松井市長も、今は二度目の住民投票に敗れて引退を表明している。本書の共著者堺屋先生も、2019年に亡くなった。

 

 10余年前、僕は大阪の改革を訴える著者らの言動には好感を持っていた。しかしもう「大阪都構想」って何だったのか忘れてしまったので、その原点を思い出そうと本書を買ってきた。TVニュースでは「大阪府大阪市の二重行政を廃し、大阪都と複数の特別区を作る」しか言わないので、その意図するところが十分伝わらなかったと思う。「鉄のトライアングル」側が、都構想を非難して、

 

・住民サービスが低下する。

増税につながる。

・市営地下鉄もこのままでいい。

 

 と「税金」を使った大規模キャンペーンをしたと本書にある。

 

        f:id:nicky-akira:20210222071728j:plain

 

 都構想の真意は本書によると、

 

・高度成長期には適切だった国主導が時代に合わない。

・国は国防・外交・通貨と高等司法のみを担当、地方分権を進める。

・官僚は自部署の権益(管掌や予算)を守るだけ、だから無駄な公共事業が増える。

・無駄な事業でも産業界は喜ぶし、政治家も反対しない。

・官僚が「身分」になっている。これを職業に戻して市民のために働いたかどうかで、市民に選ばれた政治家が評価する。

・東京一極集中を是正するため、大阪にもう一つの「極」を作る。

・今の大阪は「二重行政」で無駄が多く、大阪市の区長は官僚であって市民が選んだ政治家ではない。

大阪市は一つの行政単位としては大き過ぎるので、府と合併した上で適切な大きさの特別区に再編する。区長は当然選挙で選ぶ。

 

 というもの。国全体の構造改革、「政官産の鉄のトライアングル」を廃して財政赤字を解消、地方自治の市民の手に取り戻すという大きな目標の、第一歩が「都構想」だったわけだ。

 

 目標は全く正しいものです。それが市民に十分伝わっていません。たった一度の住民投票で破れて引退ではもったいないです。あきらめないで欲しかったです。