新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

たとえオリ/パラは無くなっても

 本書の著者兵頭二十八氏の著書は、以前「こんなに弱い中国人民解放軍」を紹介している。自衛官の経験ある評論家で、戦略・戦術や関連技術、戦史にも詳しい人。2018年発表の本書は、2020年に予定されていた東京オリンピックパラリンピックを前に、日本を狙うかもしれないテロ計画や手口について記述したものである。

 

 副題に挙げられている「スリーパーセル」とは、長く舞台となる国家に居付いていて、指示があればテロ行為に及ぶ潜入工作員とその集団のことだ。例えば旧宗主国であるフランスに逃れてきたシリア難民のうち、ISなどのテロ組織のスリーパーだったりそれが組織化されたセルになっている者が少なくないと筆者は言う。そのメンバーが2015年には「シャルリーエブド事件」を起こしたし、その後も暗躍を続けているというのだ。今やフランス全土にイスラム教徒は人口の10%ほどもいるので、官憲も十分な取り締まりが出来ていない。

 

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 もう一つのキーワード「ローンウルフ」とは、組織的背景を持たないテロリストのこと。目立ちにくいので予兆を掴むのが難しく、よもやと言うところで攻撃されることになる。自爆テロ用の爆弾も比較的容易に作れるので、たった一人でも大きな犠牲を強いることが出来るのだ。本書には様々なリスクポイントが示されている。

 

上水道への毒物

・地下街での粉塵爆発

・地下ケーブルへの放火

・トンネル内での大型車破壊

 

 など、著者自身が「風変わりなテロ」と称するものをあえて列挙したのは、本書がオリ/パラを狙うかもしれないテロへの「予防接種」だからとのこと。

 

 興味深かったのは北朝鮮に限定してであるが、サイバー攻撃のための組織について詳しい分析をしていること。核・ミサイル開発にかまけていた金正恩は財布がカラなのに気付き、サイバー部隊に外貨稼ぎを命じたとある。サイバー部隊は小学生の時期に数学に長けた子供を選抜して、特殊教育をして育てている。

 

 現在の規模は6,800名ほどだが、サイバー空間を操れるハッカーは1/4程度しかいない。他は「お目付け役」などの管理部門らしい。ハッカーは10万ドル/年ほど稼ぐことを求められるが、自身は事実上軟禁されていて給与も高くない。まあ「カゴの中の産卵用の鶏」のようなものだ。

 

 著者が紹介してくれたテロリストの背景などは、サイバー空間の今後を予測するのに有意義なものでした。テロへの警戒は緩めないように。