あまり日本では有名とはいえない著述家レオ・ブルース、英国生まれで100冊以上の幅広いジャンルの著作があるが、一番多いのが本書のようなミステリー。1936年発表の本書がデビュー作で、ある意味非常に人を食ったような作品である。
テーマは「推理の競演」で、アントニー・バークリーが「毒入りチョコレート事件」で6つの推理を並べて見せたことがある。本書はそれに加えてパロディ的要素が強く、ピーター卿、ポワロ、ブラウン神父を思わせる「名探偵」が登場する。ピーター卿に似たサイモン卿はそれらしい執事まで連れている。パロディ風の複数探偵ものといえば、日本では西村京太郎が「名探偵なんか怖くない」を発表している。本書はその先輩格にあたるようだ。
https://nicky-akira.hateblo.jp/entry/2019/04/25/000000
ジョージ王朝風の屋敷に住むサーストン医師のところに、様々な人たちが集まってきてパーティの余興に「殺人事件とミステリー」談義が続いていた。その夜、サーストン夫人の部屋から悲鳴が上がり、駆け付けた来客たちが部屋に入ろうとすると二重にシリンダー錠がかかっていた。鏡板を割って部屋に入ると夫人が刺殺されていた。窓こそ開いていたが、犯人が逃走する時間はなかったはず・・・。
地元警察のビーフ巡査部長に続いて、3人の名探偵がやってくる。貴族探偵サイモン卿は、ロールスロイス3台を連ねて到着。凶器のナイフが捨てられていた花壇では、怪しげなフランス語をあやつるムッシュ・ピコンが地面を調べている。そして小柄で太っちょのスミス神父もやってきた。3人の「名探偵」は、勝手に邸内を捜索し証人たちから供述を聞く。
夫人は前の夫が資産家だった関係で裕福だったが、そのお金を巡って彼女に死んでほしい人物は多い。3人の名探偵は独自の推理をすすめ3人揃って「犯人は分かった」という。最後の100ページは推理の競演なのだが、最後にビーフ巡査部長が4つ目の推理を話し始める。
推理を披露する順番はともかく、作者は4つの推理(犯人・トリック・動機等々)を用意しなくてはいけない。加えて3人の名探偵の人となりや推理法を似せてストーリーを組み立てないといけない。なかなか難しいアプローチだ。
ただ「毒入りチョコレート事件」には及ばなかった作品だと思いました。あとタイトルはちょっとアンフェアですね。「Case NOT for 3 Detectives」とすべきでしたよ。