新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

先代パールのいたころ

 軽妙な会話とスピーディなストーリー展開、ロバート・B・パーカーのご存じ「スペンサーもの」で、1990年代半ばの何冊かを新しく見つけた。平塚のBookーoffは、時折探していたシリーズ物がまとめて手に入るのがありがたい。僕に似た趣向の人が書棚を整理してくれたのだろうと、その度に感謝する。

 

 本書は1996年発表の、シリーズ第23作目。題名だけが大きな文字で書かれている2000年代の物と違い、象徴的な絵柄が表紙に描かれている。今回の(半分くらいの)舞台は歓楽の街ラスベガス、それを象徴したようにトランプとレイバンのサングラス(熱く眩しい街なのだ)の絵だ。多くの人が「一攫千金」のチャンスをつかみにやってくる・・・との書きぶりだが、実際はイベントやショウの街。ギャンブルの売り上げは、全体の5%程度と聞いた。

 

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 このシリーズにはスペンサー・スーザン・ホークの他に、何作か前に登場した人物が再登場し、以前は敵対していたのに味方についてくれる「準レギュラー」が何人もいる事。そもそもホークだって、最初はスペンサーの敵として登場している。本書では引退したギャング、ジョウ・ブロズが昔の借りを返すといって協力してくれるし、ヴィニイ・モリスやチョヨというガンマンも、銃こそ振るわないがスペンサーを手助けする。

 

 加えて懐かしかったのが、スペンサーとスーザンが飼っている大型犬のパール。大食漢でよく2人のいうことを聞くが、わがままなこともある雌犬だ。2000年以降のシリーズでは亡くなっていて、二代目パールが登場していた。

 

 今回の事件、ブロズが引退した後ボストンの縄張りを争うギャングたちの中の有力者ヴェンテュラが、行方不明になった娘婿を探してくれとスペンサーを訪ねるところから始まる。彼の一人娘シャーリーは、ハイスクール以前には学校にも行かせなかった箱入り娘。

 

 何不自由なく育てたのだが、17歳でつまらぬ男アンソニーと知り合い結婚してしまう。無能なうえに賭博狂の彼は、組織の金を持ち逃げしてラスベガスに飛んだ。しかもヴェンテュラのライバルであるギャングの妻とシケ込んでいるらしい。ホークらとベガスに飛んだスペンサーだが、シャーリーが殺されたことでギャングたちの争いに巻き込まれる。

 

 少し若返ったスペンサーたち、パールも含めていつもの会話や日常を楽しめました。400ページがすぐ読めてしまうのが、特徴のシリーズです。