新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

宗教的共同体での殺人事件

 先月マーガレット・ミラーの「まるで天使のような」を紹介した。ネヴァダ州の砂漠の町で独自の宗教観を持った人たちのなかで起きる事件を、町に流れてきた私立探偵クィンが解決しようとする話。それと極めて似た設定のミステリーを巨匠エラリー・クイーンが発表したのが本書(1964年)。「まるで天使のような」は1962年の発表だから、まさかとは思うが、同書をヒントにしたのかもしれない。

 

 時代設定は第二次世界大戦中の1944年、ハリウッドで戦時意識を鼓舞するような映画が量産されていた。シナリオ担当として招かれていたエラリーは、激務に耐えかねて東海岸に戻ることにする。愛車デューセンバーグで大陸横断を図った彼は、ネヴァダの砂漠で奇妙な村に迷い込む。クイーナンというその村は外界とほとんど接触がなく、200人ばかりの村人が原始共産主義的な共同生活を営んでいた。

 

 教師という老指導者のもと、記録係・陶工係・織物係・雑品係・家畜係・栽培係など12人の評議員が、キリスト教の色濃い共同体を運営している。彼らはその祖先を含め50年以上ここで暮らしている。自給自足ではあるが、パンもワインもありエラリーはここで評議員会の歓待を受ける。クイーンと言う名前が「伝説の到来者」と思われたのだ。

 

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 過去に一度「盗み」はあったものの犯罪のほとんどない村で、エラリーはしばしの安息を得る。しかし滞在4日目の水曜日、雑品係がハンマーで殴り殺されるという事件が起きる。唯一の犯罪捜査経験者ということで捜査に乗り出したエラリーは、彼らの知らない「指紋」を採ったり「アリバイ」を確認するなど真犯人を見つけ仮の法廷を開く。しかしそこから先は、エラリーにも意外な哀しい展開が待っていた。

 

 題名の「第八の日」というのは、神が世界を作った時6日目に人間を造り翌日は安息日にしたというキリスト教の教えに由来する。すべてが終わったあと、もう一日エラリーの仕事が残っていたということ。

 

 初期の頃、華麗な論理推理で読者を魅了しながら、外面は華麗だが内面は干からびているとも評された作者。後期には「ライツヴィルもの」など、人間の内面に迫る作品を多く発表している。本書もその一つですが、どうしてもキリスト教に縁のない僕には分かりにくい作品でしたね。