新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

MICEの価値をどう考えるか?

 このところ、IRの話を聞くことが少ない。もちろん株式上場のことではなく、特定複合観光施設区域のことである。2018年7月に通称「IR整備法」として関連法が成立し、一時期は国会論争やメディアでの特集も派手だった。インバウンド需要で日本中が湧きたっていたこともあり、「訪日外国人目標年間xx万人」という威勢のいい言葉が発せられ、僕らの宜野湾や函館の定宿が予約しにくくなった時期だ。

 

 本書(2019年6月出版)は、インバウンド増の切り札とも言われた統合型リゾート(IR)を促進する目的で書かれたものである。皮肉なことに出版から9ヵ月も経たないうちに、世界は「COVID-19」騒ぎで国境封鎖に近い状態になる。

 

 だがこういう時だからこそ、「After COVID-19」にはIRを含めたインバウンドをどうするか、冷静に考えるべきだろう。IRというとすぐに、

 

 カジノ・ギャンブル・賭博依存症・マネーロンダリング

 

 という公式が語られるのだが、IRという区域の中でカジノが占める面積は3%程度というのが常識。大規模なホテル、バラエティあふれるレストランがあり、その主目的はMICEである。MICEとは、

 

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・Meeting

・Incentive Travel

・Convention

・Exhibition / Event

 

 の頭文字をとったもので、多くの集客交流が期待されるビジネスイベントの総称である。世界を駆けるビジネスマンが、議論し、学び、関係を深め、ビジネスを練り上げる傍ら、美味しいものを食べ、その地の文化に触れ、息抜きに(社交としての)ギャンブルをするというのがIRの本質だ。

 

 著者はタフツ大フレッチャー校で修士号を取った外交官、在日大使館で臨時代理大使を務め、日本MGMリゾーツ社長に就任している。30年間日本に関わり、方々を旅して歩いた経験から、外国人にとっての「日本の魅力」を本書にも一杯書いている。

 

 「日本の魅力」はいいのだが、やはりIRはMICEがどれほどの価値を持つかで評価されよう。「COVID-19」騒ぎで国際間のビデオ会議が普通になった。いずれMICE需要は戻るという人と、そこまでは戻らないという人がいる。IRの候補地である大阪は、感染のひどいエリアのひとつです。しかし2025年には万博もあります。さあ、巨大な国際会議施設の価値を、大阪市民はどう捉えるのでしょうか?