「アラブの海に浮かぶ国」イスラエルは40年前の昨日、イラクの狂犬と呼ばれたサダム・フセインが建設中だった原子炉を空爆し、これを完全に破壊した。サダムはこの原子炉「オシリス」を使って核兵器開発を考えていたと思われ、アラブ諸国の核武装はユダヤ民族に対する「再度のホロコースト」と考えるイスラエル政府は、その芽を摘む行為に出たわけだ。本書は米軍のパイロット出身でレーガン政権の航空行政にも携わったことのあるダン・マッキノンの手になる、イスラエルの原子炉破壊作戦を描いたドキュメントである。
第二次世界大戦後「約束の地」に建国されたイスラエルというユダヤ民族国家は、敵意をむき出しにするイスラム国家の中に浮かんでいる存在だった。数次の「中東戦争」を勝ち抜き、暫時の平和を獲得したものの、安寧の日は遠い。いまでいうG7国家の支援も信じられないと考えた彼らは、独自の戦略を展開、核武装の道を歩む。
驚いたのは、僕も行ったことのある南部ビア・シェーバの街の近くネゲブ砂漠のなかに、その開発拠点があったこと。ビア・シェーバが今はサイバー戦争の開発拠点となっているのは、偶然ではなさそうだ。
この動きに迅速に反応したのがイラクのフセイン政権。ソ連からの原子炉導入に成功するも、ここでは兵器を作れる濃縮度は得られない。ソ連は「核兵器不拡散」はちゃんとやっていたわけだ。フセインは次にフランスへの石油輸出をタネに、核兵器開発可能な原子炉導入を目指す。フランスはこれに応じ、原子炉建設が始まる。
「狂犬」の核武装に苦慮したイスラエルは、米国・英国らの助けを借りてこれを阻止しようとするが、自らの手でこれを葬ることも考え始める。折からイラクはイランとの戦争状態にあり、イランも「オシリス」を空爆しようとするのだが、これは失敗に終わる。イスラエル空軍は新規に導入した戦闘爆撃機F-16を使って「オシリス」を破壊する作戦を決行する。
F-16は本来支援戦闘機だが、画期的な電子化と操縦性・燃費の良さを持っていた。8機のF-16をフィンガー4形態で2編隊、F-15を6機制空に廻し、爆撃作戦がスタートする。驚くのは徹底した情報管制、作戦は閣僚も知らなかったというし、事後も情報統制は完璧だった。
与党リクードのベギン首相は「正しいこと、イスラエルと世界のため」と攻撃の理由を説明しています。迫力あるドキュメント、面白かったです。