新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

断片しか知らない歴史

 世界最強国家である米国が、アジアの小国に敗れた。この評価は正しくないかもしれないが、少なくとも米国人の多くはそういう傷を心に持っている。もちろんその小国とは日本ではない、ヴェトナムである。

 

 第二次世界大戦に勝って唯一の超大国になった米国だが、続く朝鮮戦争では中国軍の介入もあって引き分けに終わった。そしてインドシナ半島の泥沼戦に引き込まれていく。著者は「日本語で書かれた、ヴェトナム戦争の包括した記録がない」ことを、本書執筆の動機として挙げている。

 

 1961~1975年は、僕の幼稚園から大学までの就学期にあたる。遠いインドシナで米国人が(なぜか)闘っていて、戦争に子供を行かせたくない親、行きたくない学生、負傷して帰ってきた兵士等々、そんな話を映画やニュースなどで断片的に知るだけだった。大人たちは、日本は平和国家だからあの戦争に兵士を出さなくてもいいのだと喜んでいた。一方で戦争も終盤になると共産主義勢力がラオスカンボジアにも広がり、東西冷戦はどうなるのだろうと僕らも不安になった。大学に入ると「民主青年同盟」などという連中と激論をする羽目に・・・。

 

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 著者らしく、この戦争全般を把握するためにいくつかの数字が示されている。

 

◆直接的な犠牲者(死者)

 南ヴェトナム政府軍 241,000人

 同民間人 415,000人

 米国人 56,555人

 韓国・豪州等同盟軍 6,000人

 北ヴェトナム軍&民族解放戦線 100万人以上

 北ヴェトナム民間人 33,000人

 

◆戦費

 米国 1,390億ドル

 ソ連 90億ドル

 中国 44億ドル

 

◆米軍の損失

 戦死者(KIA) 47,253名

 事故死者 10,499名

 重症戦傷者 153,312名

 軽症戦傷者 153,341名

 消費爆弾 755万トン、 砲弾 154万トン

 損失固定翼機 3,689機、 損失回転翼機 4,857機

 

 結局のところ、南ヴェトナム政府があまりにだらしなかったので、守り切れなかったというのが著者の指摘。カトリック仏教徒の対立が、滅亡寸前まで収まらなかった。しかし太平洋戦争で日本に落としたより多い爆弾で「北爆」をしながら、北ヴェトナムが耐えたのが大きい。米軍が重要目標を爆撃しなかったり、原爆を使わなかったということはあるのだが。

 

 インドシナ半島に今も残る戦争の爪痕、改めて15年の歴史を読んで勉強になりました。