航空戦力の充実が急務となっていた1930年代、各国は爆撃機・戦闘機だけでなく偵察機の開発にもしのぎを削った。陸戦と違って海上戦力は、どんなに強い戦闘力を持っていても、相手がどこにいるかが分からなければ戦いようがない。1万トン級の体躯を誇った巡洋艦という艦種すら、元来は偵察用のものだ。
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航空母艦もそもそもは攻撃用ではなく、偵察用の航空機を搭載・運用するために開発された。一時期は飛行船という偵察戦力が試されもしたが、結局のところ陸上からの長距離機(例:97式陸上攻撃機)、飛行艇(例:97式大艇)、艦上偵察機(例:彩雲)、艦載も可能な水上偵察機らを組み合わせて洋上の敵を補足することになる。
本書の主人公は、1940年末に正式採用になった太平洋戦争の最新鋭機「零式三座水上偵察機」である。操縦員・偵察員・電信員の3名が乗り組み、全長11.5m、重量3.7トンの機体を飛ばす。エンジンは三菱製の「金星」1,080馬力と、当時の零式艦上戦闘機より強力なものだ。
このエンジンが低翼単葉のフロート付き(通称ゲタ履き)の機体を、最高時速370km/h、航続距離3,300km、滞空時間15時間で飛ばすことができる。固定武装は後方旋回機銃(7.7mm)が1門だけだが、爆弾倉があって60kgなら4個、250kgなら1個搭載できる。
偵察だけでなく長い滞空時間や爆撃能力をもって、船団護衛・対潜警戒や攻撃をすることもできた。運用が楽だったようで、前線では万能機として重宝されたらしい。筆者は実際にこの機を駆ってソロモン海などで戦った操縦員である。欧米の軍と違って、日本の飛行機乗りには貴族階層の士官は少ない。筆者も庶民の出身で下士官(飛曹長)である。それゆえ特権階級・高級軍人らとは違う、庶民の眼で戦争を見ている。
ソロモン諸島で魚を取ったり、現地民と交流する話はほのぼのとさせる。一方グラマン戦闘機に襲われて逃げる話、仲間の機を失った悲しみなどは心を打つ。美しいソロモン海で、今中国がツラギ島租借を言い出して物議をかもしている。1942年には日本軍が水偵基地を作った島だ。いわゆるガダルカナルの戦いは米軍艦載機がツラギを奇襲して始まった。その歴史が繰り返されないか、心配ですね。