新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

最大の脅威は日本の経済力

 バイデン政権が明確に「ライバルは中国」と名指ししたが、その少し前は「Pax Americana」の時代だった。1980年代に米ソ冷戦は解消に向かい、ライバルはいなくなった。しかしソ連の凋落・軟化と同時に、新しいライバルの芽が出てきたことはある。それが日本。1990年ごろの米国内の調査では「ソ連の軍事力より、日本の経済力の方が脅威」という結果が出ていた。

 

 1991年発表の本書は、後に作家に転じるが当時はジャーナリスト(NHK政治部記者)だった手嶋龍一氏のノンフィクションである。1980年代後半、日本は支援戦闘機F-1の後継機として、三菱重工中心に独自開発する構想を持っていた。中曽根・レーガン時代のことだ。米国の本音は、既存の戦闘機をそのまま買ってほしいというもの。しかしそれを強行すれば、日本を独自開発に走らせてしまう。

 

 すでにテレビ・家電・半導体といった分野で日米逆転が起きていて、例えば米国は日本市場のシェア20%分を米国半導体メーカーに譲るよう強制(日米半導体交渉)していた。この上、安全保障にかかわる戦闘機と関連技術で追いつかれるようなことがあってはならない。米国は「共同開発」することで手打ちにしようとした。

 

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 日本側は、次期支援戦闘機FSXは実質的に21世紀の主力戦闘機と考えていた。既存のF-15F-16F/A-18などを大きく上回る性能が必要だった。しかしフェーズドアレイ・レーダー(これも半導体だ)や姿勢制御技術には自信があるものの、エンジンや戦闘用プログラムでは米国に一日の長があることも確か、これらを全部実装するには「共同開発」も仕方がないと妥協した。

 

 しかし米国でレーガン政権がブッシュ政権に代わると、状況が一変する。日本と違って強大な権力を持つ議会がホワイトハウスに盾突き、FSX共同開発を白紙にするよう迫ったのだ。それは、議員たちの地元経済が日本によって困窮させられていて、これ以上日本を利するなという声が高まっていたのだ。

 

 筆者は東芝機械事件や湾岸戦争での日米対立などを含めて、当時の関係者にインタビューし本書をまとめた。確かに平成初期は、日米関係が一番悪かった時代かもしれない。しかし今も民生技術を含めた経済安全保障や半導体産業の再興などを日本政府は標榜しています。国際的な技術戦争は、まだまだ続きますからね。