新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

「COVID-19」対応に見る日本の病理

 本書は感染症専門医で「ダイアモンド・プリンセス号」に乗り込んで、その実情をYouTubeに公開した岩田健太郎医師が、2020年3月に緊急出版したもの。「COVID-19」とは何かから始まり、巷間言われる感染対策のうち意味のあるもの・ないものを示したうえで、危機管理に関する日本の問題点にまで言及した書である。

 

 まだ第一波の緊急事態宣言だ出される前に、著者はかなり正確に「COVID-19」の行方を予測している。もともとコロナウイルスは、ほとんどの人は感染しても自然に治ってしまう。特に治療法もないし、免疫力を高める以外は酸素吸入など対症療法しかない。免疫力を人為的に高める手段はワクチンだけだと、冒頭にある。

 

 これまでにもSARSやMERSの流行はあったが、日本はそれらの影響を大きく受けなかった。感染症学の専門家も少ないし、米国のCDCに相当する機関もない。飛沫感染ウイルス対策として、

 

・手指消毒が最も重要

・マスクは感染させない効果はあるが、感染しない効果はない

PCR検査は6割の感染者しか判定できない。陰性でも未感染の証明にはならない

 

 と示し、巷間言われる「無駄な努力」がいかに多いかを嘆いている。どうせ「ゼロ・リスク」にはできないのだから、疲れ切るほど「対策」をしても長続きしないだけだと手厳しい。

 

        f:id:nicky-akira:20210710155529j:plain

 

 「ダイアモンド・プリンセス号」で感染者急増という事態に対し、厚労省はDMAT(災害派遣医療チーム)を送り込んだ。しかし彼らは地震・大火災などで人命救助にあたるのが任務。感染症についてはほとんど知識がない。そこで感染症学会が専門家を送るのだが、厚労省+DMATと衝突して撤退してしまう。その後、手を挙げて船に乗り込んだ筆者は、

 

感染症対策の保護着の着脱法も知らない

・安全、危険ゾーンを分けることもしていない

 

 現状に驚く。しかも検査をするのに3,000名の乗員乗客から、同意書を紙で(!)とると聞いて制止しようとする。紙を媒介した感染拡大が目に見えていたからだが、厚労省の指針に「紙で同意をとれとある」として押し切られる。数時間で筆者は船から追い出されるのだが、緊急事態にものちにどうとでも言い逃れできる「霞ヶ関文学流」の広報に怒りを禁じえない。

 

 ずっとマイナーだった感染症学。デジタル業界でのセキュリティ技術者に似ていますね。どちらのウイルスも、対処の考え方は似ていますし。