新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

「正義の石臼」を挽く労働者

 本書(1993年発表)は先日紹介した「密造人の娘」に続く、マーガレット・マロンの「デボラ・ノットもの」の第二作。前作に登場したデボラの周りの人たちが再び登場し、その枠も広がっている。

 

 前作で6月の地方判事選挙に敗れて2位に終わったデボラだったが、その後判事の一人が急死し「繰り上げ」の形で地方判事に就任する。そして判事としての務めを始めた彼女に、新しい事件が降りかかる。

 

 時期は7月、普通米国南部といえば暑い夏が想定されるが、高山(2,000m級の山)も長い海岸線もあるノースカロライナでは、さほど過ごしにくくはない。州の裁判所も3層構造で、最高裁控訴審の裁判官はともかくデボラのような地方判事には秘書も付かない。一人で法廷に立ち、検事補が読み上げる罪状と(いれば)弁護人の陳述を聞いてその場で判決を下す。

 

 酔っ払い運転や家庭内DV、コソ泥、薬物不法所持などの容疑者がデボラの前に立つ。彼女の先輩たちは地方判事のことを「正義の石臼を挽く労働者」と自嘲して言う。しかも法廷の裁きが済めば、選挙で選ばれたものとしての「奉仕活動」が待っている。デボラの場合は、不幸な身の上の人達を収容する建物を建てる手伝いだ。

 

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 今は<コーヒー・ポット>の向かいにある土地に、女性のシェルター用の建物を援助活動家のルーと一緒に建てている。この辺りは非常に狭い土地柄、誰もが知り合いでその付き合いは何代にも及ぶ。みんな子だくさんだが、離婚・結婚を繰り返す人も多く人間関係は複雑だ。デボラ自身父親と最初の妻の間に生まれた兄や、自分と同じ母親の兄をたくさん持っている。

 

 最初の妻の子ハーマンには、16歳の娘アニー・スーがいる。彼女やその同級生の女の子たちは、建築現場にやってくるイケメンに熱を挙げている。しかしある日その男はアニーに乱暴しようとした。駆け付けたデボラが救うのだが、すでに何者かが男を殴り殺して去った後だった。前作同様狭い世界の乱れた男女関係、特に白人と黒人の関係を巡って噂は沸騰する。加えてハーマンが何者かに毒を盛られて重体に陥る。殴り殺された男の死体からも微量の毒物が・・・。

 

 バラエティある事件を裁く法廷シーンに見るべきところはあるものの、前作ほどの評価はできません。多分キリスト教的な何かが僕に欠けているので作者の意図が見えないように思います。引き続き、残り2作を読んでみましょう。