新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

<咳止めシロップ>を嗜む町

 2012年発表の本書は、米国南部ルイジアナ出身のジャナ・デリオン作の「ミス・フォーチュンもの」の第一作。作者はいくつものシリーズを書き分けているが、大半はルイジアナ周辺が舞台。本書に登場する架空の町シンフルには、バイユーと呼ばれる濁った川が通り、湿地や沼が点在している。このような町は、ルイジアナには珍しくないらしい。

 

 東西両海岸しか知らない僕には珍しい日常が、本書にはたっぷり描かれている。「ドライカウンティ」らしく、お酒はご法度。それでも密造酒は出回り、人々はこれを<咳止めシロップ>と呼んで愛用している。ただビールは公に呑めるようだ。

 

 川や沼地にはアリゲーターも生息していて頻繁に出没する。水中はもちろん陸上でも意外に早く走るのだが、特に人間を襲うことは少ないとある。魚やカエルなども多く、時にはアライグマも人家に侵入してくるところ。

 

 主人公ミス・フォーチュンは、CIA所属の敏腕美人スパイ。ちょっとやりすぎることが多く、長官から「フン族アッティラ大王より多くの人命を奪った」と非難されている。今回も中東でのミッションで、巨大武器商人の頭目の弟を殺して(それもハイヒールで殴り殺した!)しまい命を狙われることに。組織のスパイもCIAに潜んでいると思われ、長官はCIA内にも秘密で彼女を隠す。

 

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 その場所がシンフルにある屋敷。ここは長官の親族マージの家だったが、最近マージが亡くなり、姪のサンディが相続することになっていた。サンディが現地でメンが割れていないことから、フォーチュンはサンディに扮して南部の町にやってきた。

 

 自分と趣味も性格も違うサンディになり切るのに苦労していた彼女だが、ある日裏庭で人骨を発見する。それはしばらく前に行方不明になった、ハーヴィという男のものと分かった。彼は近所の嫌われ者で、妻にも暴力を振るっていた。やはり行方不明になっていたハーヴィの妻マリーが、重要容疑者になった。この事件に巻き込まれたフォーチュンは、マージの友人2人(ガーティとアイダ・ベル:共に高齢女性)に助けられて、事件解決をする羽目に・・・。

 

 全くスパイものではないし、ミステリーと見ても悩みはあるのですが、それなりに面白かったです。特に主人公の破天荒さは出色。シリーズは10冊以上あるとのことですが、翻訳はどうなっているのでしょうか?