新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

いや、それがスペインさ

 本書は、第一作から第三作までをご紹介した、ポーラ・ゴズリングの第五作。じゃあ第四作はどうしたと聞かれそうだが、別名義の普通小説らしいのでパスした。毎回思い切って作風を変える作者だが、今回はスペインという国とそこに住む異邦人を、本格ミステリーの手法で描いている。

 

 4冊読んで共通しているところは何か考えてみたが、たった一つしか思いつかなかった。それは大人の恋物語。事件や陰謀の中、普通なら接点のない男女が協力して敵に立ち向かううちに恋に・・・ということ。本書では英国領事館の職員チャールズと米国人の未亡人ホリーが主人公だ。

 

 チャールズはスペインが気に入ってしまって15年も転勤していない。主にスペイン在住の英国人のケアをしている。外務省の友人が言っていた「邦人保護業務」の担当だ。引退した英国税務局職員でスペインの田舎町に住むレジナルドという男が、スペイン警察に殺人容疑で逮捕された。自宅の高層マンションで男を刺し殺し、ベランダから投げ落とした疑い。

 

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 レジナルドの息子は模写が得意の画家だったが、贋作事件で容疑を掛けられたまま事故死していた。被害者の男も大けがを負ったのだが、公判では息子に罪を着せ従犯として軽微な罪で出所してきたところを殺されたらしい。レジナルドには動機・機会・物証が揃っているが、本人は殺害を否定している。チャールズは警察とは別に事件を洗い始め、息子の妻だったホリーの協力を得る。しかし大きな組織の魔手が、二人にも迫ってきた。

 

 「スペイン人をヨーロッパ人と思ってはいけない」とチャールズがホリーに語る。ホリーはスペインに来て日も浅く、スペイン語もうまくない。英国人や米国人が住む高層マンションの中での付き合いしかない。ホリーは、貧困層の子供たちの様子や、車の運転の粗さ、森が少ない理由などをチャールズに聞くのだが、そのたびに絶望的な答えが返ってくる。それはひどいと声を挙げると、彼は「いや、それがスペインさ」と答える。

 

 地元の人たちはお金に余裕のある外国人を嫌っているが、彼らが落とすお金がないと生活が成り立たない。英米では中産階級でも、ここなら富豪扱い。太陽は暑すぎるし清潔でもないのだが、チャールズはここの「人間臭さ」が気に入っている。

 

 スペインという国の実情に加え、立派などんでん返しもアクションもサスペンスもある傑作でした。作者は一作ごとに成長しているようにも思えます。