新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

隠密性が命の難しい艦種

 よく架空戦記に「潜水空母」とか「海中戦艦」などという艦種が出てきて、(英米軍相手に)大活躍する物語がある。帝国海軍の巨大潜水艦「伊ー400」級は、確かに「晴嵐攻撃機3機を搭載していて、十分な浮上時間がとれるならパナマ運河のような敵軍のアキレス腱を攻撃することは可能だった。

 

 さらに攻撃機の回収に至っては、ほぼ不可能。実質的に「晴嵐」は特攻機だったわけだ。戦況の悪化だけではなく用兵上の無理があって、「パナマ作戦」は実行されないで終わっている。

 

 本書の著者中村秀樹は、防大卒、海上自衛隊護衛艦隊幕僚・潜水艦艦長・幹部学校教官などを経て防衛研究所で戦史を研究していた人だ。本書の多くのページは、太平洋戦争当時の日本海軍の潜水艦作戦の分析に割かれている。ただその前に、潜水艦って何?という解説があって、素人には分かりやすいものだ。

 

 一言で言うと、隠密性が命の艦種であるということ。どこにいるかわからないというだけで、敵軍にはプレッシャーを与えられる反面、一旦存在が暴露されてしまえばこれほど脆弱な戦闘艦はないということ。現在からみると非常に未熟な技術の時代だった太平洋戦争当時でも、気づかれずに単艦で接近し魚雷をもって主力艦を葬ることも可能だった。現実に日本海軍の潜水艦は2隻の正規空母を沈め、2隻の戦艦と2隻の正規空母を撃破している。

 

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 一方で本来の任務と異なる「海輸」に使われたりして、期待された戦果を挙げることなく127隻を喪失している。このうち約30隻については、連合軍側に撃沈破したという記録がなく、事故などで失われたものと思われる。

 

 筆者は「惨敗」とも言える結果に終わった太平洋戦争における潜水艦戦に対して、用兵思想の根本的な間違いがあると指摘する。艦隊決戦思想に憑りつかれていた海軍首脳部は、潜水艦にも艦隊に随伴する機能を求め、航続力や水上速力を上げることに努めた。その結果一番重要な「静粛性」を損ない、容易に敵軍に探知されるようになった。

 

 また100隻以上の建造をしたのはいいとして、それを操れるプロフェッショナルを十分育成できなかった問題もあるという。艦の特殊性を骨の髄まで分かった艦長やクルーであれば、事故も防げたろうし無駄な損害も少なかったと思われる。

 

 その戦訓が今の海上自衛隊潜水艦部隊には生きていると思いたいが、同時に「戦争をしない軍隊」という根本問題もあるという。これは日本全体に言えることですがね。