新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

「丸太」即チ、材料ノ意味

 「COVID-19」が「中国科学院武漢ウイルス研究所」から漏れ出たものかどうかは別にして、防疫研究のためにはウイルスを培養して各種の実験をする必要があることは確かだ。旧日本軍もそれをしていて、今中国に2ヵ所あるレベル4施設のうちの一つがあるハルピンに大規模な施設・部隊を置いていた。

 

 本書(1983年発表)は、ミステリー作家森村誠一氏が中心になって、各種の資料や生存者のインタビューを通じてまとめたものだ。筆者は当初小説の一環として情報収集をしていたが、結果が小説の材料には余るとしてドキュメタリーとして発表している。

 

 通称「石井部隊」と言われる満州731部隊は、定員3,000名の研究者や補助員を擁する陸軍(関東軍)の一部門である。部隊長石井四郎中将は京大卒、軍医の道を歩み少佐時代に「石井式濾過機」を発明して有名人となる。世界は白人に支配されているとして日本の国力増強に努め、防疫給水部隊設立を提言した。1936年に防疫班が設立され、ノモンハン事件では細菌戦も仕掛けたとある。

 

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 組織は満州一円に拡大を続け、1941年に第731部隊として正式に発足する。以後1945年にソ連の侵攻を受けて撤収するまでに、

 

・細菌研究:コレラ、ペスト、チフス赤痢

・生物研究:ネズミ、ノミ、馬、羊、穀物

・病理研究:凍傷等

 

 を人体実験を伴って実施している。研究結果はソ連には渡らず、内地に逃げ延びた中将らによって米軍に提供され「何百万ドルの費用を掛けた貴重なもの」と喜ばれたらしい。人体実験では「丸太」と呼ばれる、ロシア人捕虜・中国人ゲリラ・匪賊らが利用され犠牲になった。戦後の裁判で石井部隊幹部は、

 

 「丸太」即チ、材料ノ意味

 

 と平然と応えたという。あるものはペスト菌を植え付けられ、戦車の中で丸焼きになり、凍傷で全身がボロボロになって死んでいったとある。「丸太」は充分な栄養・睡眠を与えられるが、それは実験結果にブレが生じないためのこと。実数は不明だが、3,000人以上は犠牲に成っていると思われる。これを筆者らは「悪魔の所業」といい、研究所自体は厚遇され豪華な食事も供されていたことから、本書のタイトルを「悪魔の飽食」としたようだ。

 

 戦後30年経って、ようやく関係者の口が開いたことから、本書をまとめることができたようです。歴史の暗部ですが、後世に残すべき重要な情報ですね。