新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

6組のカップルを襲うもの

 本書(1945年発表)は以前「迷走パズル」と「俳優パズル」を紹介した、パトリック・クェンティンのピーター&アイリス夫妻のシリーズ第四作目。実は第三作「呪われた週末」は、別冊宝石に邦訳が掲載された後再版されたかどうかもわからず、入手できていない。作者パトリック・クェンティンは別名のQ・パトリックも含めて複雑な合作体制を取っているが、それについては「迷走パズル」のコメントを参照いただきたい。

 

 ピーター&アイリス・ダルース夫妻が登場する作品は9冊あって、リチャード・ウェッブとヒュー・ウィーラーが合作したなかでも評価の高いもの。ウェッブの伏線を巧みに使う本格手法と、ウィーラーの人間の裏の顔を描いてのサスペンスが融合した傑作が多いという。

 

 「迷走パズル」で出会い「俳優パズル」で結婚したダルース夫妻は、今回ネバダ州に豪邸を持つ大富豪ミス・ロレーヌに招かれる。まだ第二次大戦下でピーターは海軍大尉なのだが、ちょうど休暇で帰宅していたのだ。ダルース夫妻のほか、ロレーヌの兄ウォルターとその婚約者ミミ、ロレーヌの学生時代の友人ドロシー(バツ2の金髪美女)、ジャネット(不器量だが金持ち)、フルール(小柄で内気)と自身の婚約者チャックも呼ばれていた。

 

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 ロレーヌは今回結婚式を挙げ、みんなに祝ってもらいたいと、サプライズゲストを呼んだ。それが、

 

フランダース ドロシーの夫で元海兵隊のブクサーあがり、ドロシーの尻軽さと金遣いの荒さで血を見そうな関係。

・ラグーノ伯爵 ジャネットの夫だがこちらも離婚調停中

・ワイコッフ医師 フルールの夫、フルールからは多忙すぎるとこちらも離婚秒読み中

 

 だったので、パーティの場は怪しげな雰囲気に包まれる。何しろフランダースは片足をサイパンで失った傷病兵なのだが、腹に据えかねてドロシーをステーキナイフをふりかざして追い回した過去もあるのだ。

 

 ダルース夫妻を除いては、どのカップルも誰かに色目を使っているようで、ついにドロシーが不思議な死に方をした。劇薬クラーレを塗った吹き矢のオブジェが紛失していて、ダルース夫妻は毒殺を疑い素人探偵を始める。

 

 次々と命を狙われる女性たち、そのサスペンスと残り50ページからダルース夫妻が暴く真相は出色の出来です。特にピーターとアイリスが独自に、ほぼ同時に真相に迫るところがうまい「意外な決着」を産みます。このシリーズ、あとの作品はまだ見つかりません。残念!