本書は1990年から1996年まで、全20巻を数えた架空戦記「紺碧の艦隊」の1冊目である。作者の荒巻義雄はSF作家、1972年短篇集「白壁の文字は夕日に映える」でデビューし星雲賞日本短編賞を受賞している。伝奇ロマンを得意としていたが、1986年の「ニセコ要塞1986」で架空戦記に手を染め、その後15年ほど架空戦記を書き続けた。その中でも一番有名なのがこのシリーズ。
舞台は第二次世界大戦だが、ブーゲンビル島上空で戦死した連合艦隊司令長官山本五十六は、前世の記憶を持ったまま後世日本に転生する。日露戦争での日本海海戦で装甲巡洋艦「日進」乗り組みの高野候補生として・・・。前世同様順調に昇進した高野は、米国との衝突に備えて前世の記憶を持つ他の同志たちと海軍内に「紺碧会」を結成、海軍次官として戦力の転換を図る。
同じく転生組の陸軍大高中将も「青風会」を結成、開戦直前にクーデターを起こして政権を奪取する。しかし米国の陰謀が進んでいて、新政権でも開戦を避けることが出来なかった。そして史実通り、ハワイで戦端は開かれる。
その後多くの架空戦記が登場するが、その先鞭をつけたのが本書。「太平洋戦争:こうすれば勝てた」風の書物の多くを作者は読み込み、ここでは日本側は、
・中国戦線の縮小
・優秀な技術者を一兵卒として徴用するような不合理を廃止
・アジア諸国を「民族自決」で味方につけ、植民地解放で英米に対抗
などの施策を打ちだす。さらに究極の戦力として大型潜水艦による「紺碧艦隊」を実戦配備する。旗艦「富嶽号:伊601」は、
・排水量5,000トン以上
・ポンプジェット推進で水中速力18ノットを実現
・特殊爆撃機「雷洋」2機搭載
・62サンチ魚雷発射管12門
という驚異的な潜水艦だ。やや小型の伊500型の僚艦3隻とともに、緒戦のハワイ沖海戦では、空母レキシントンや戦艦アリゾナを一撃で沈めている。さらに長躯パナマまで遠征、運河の閘門を艦載機の雷爆撃で破壊することに成功している。この艦隊は、「大和級戦艦」を開発する予算や資材を流用して整備された。
このシリーズはアニメ番組として1993年から放映され、PCゲームにもなりました。20巻のうち4~5巻までは面白く読んだのですが、その後は政治的なシーン(例:米国と講和)が増え、30年前には確か7巻までで買うのを止めた記憶があります。