新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

片田舎のよそ者兄妹

 本書(1943年発表)は、ひさびさのミス・マープルものである。1930年に「牧師館の殺人」でデビューした、セント・メアリ・ミード村の老嬢ジェーンは、12年を経て「書斎の死体」で二度目の探偵役を務める。

 

https://nicky-akira.hateblo.jp/entry/2020/07/15/000000

 

 本書は「書斎の死体」に次ぐ作品だが、実はジェーンは全15章のうちの2~3章にしか登場しない。主人公は事実上、物語中の「私」である傷痍軍人ジェリー・バートンだ。第二次世界大戦真っ只中の時代、ジェリーは最前線ではなく後方で航空機事故にあって背中と脚を負傷する。物語は彼の脚のギブスがとれ、松葉杖を使いながらも歩けるようになったところから始まる。

 

 医師の勧めで田舎町で療養することにした彼は、妹ジョアナを伴ってリムストックという町にやってきた。町はずれの豪邸で一人暮らしをしている老婦人の家に、間借りすることにしたのだ。あふれる陽光、爽やかな風、美しい山々など自然は申し分ないのだが、町(というよりムラか)の人たちとはなかなか打ち解けない。

 

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 ある日、彼ら兄妹のところに匿名の手紙が届く。書籍のページから文字や単語を切り貼りした内容で、二人が淫らな関係にあると告発している。事実無根と怒ったジェリーは、誰がそんな手紙を出したのか調べ始める。すると、あることないこと記載した手紙が町の多くの人に届いていることがわかる。

 

 そんな中、土地の名士であるシミントン弁護士の妻が青酸カリで亡くなる事件が起きた。遺書らしきものがあるのだが、匿名の手紙がきっかけでの自殺とも思われる。さらにシミントン家に出かけたある家のメイドが戻らず、翌日殺害されていたのが見つかる。匿名の手紙以降連続した事件と考えて犯人捜しをするジェリーだが、いまだに「魔女伝説」を信じている人がいるような田舎の人間関係に閉口する。ある婦人曰く、

 

 この町ではなんでもニュースになる。誰も秘密など持てない。

 

 ということ。町の牧師の妻カルスロップ夫人は、「警官じゃなくて、よこしまな実例を多く知っている専門家を呼ばなくては」とミス・マープルに助けを求める。町のよそ者ジェリー兄妹の奮闘には敬意を表しながら、僕としてはもっとミス・マープルを長く見たかったです。もちろん、彼女の解決はいつも通り鮮やかですが・・・。