2017年発表の本書は、銀行をはじめとする金融機関のAI活用例を紹介し、2030年には銀行はどうなっているかを予測した書。背景にはデジタル化・AI活用で無くなると予想された職業のうち、半分近くが金融業だったことがある。この予測には当時日銀にいた友人が非常に憂慮して、これからの金融業でのデジタル活用(今でいうDX)をどうするかという勉強会を開いたぐらいだ。本書は僕がその勉強会に出席していたころに出版されている。
ゴールドマン・サックスのトレーダーが、AIトレーダーで代替えされて600人が2人になってしまったことが冒頭紹介されている。本書は帯では「銀行では人間が不要になる」とセンセーショナルに言うが、内容そのものは銀行などの金融機関のDXの方向性だ。金融機関では、AI等を活用して高度化・合理化している業務が10あるという。
1)ヘッジファンド
以前ほど儲かる商売で無くなり、合理化が求められる。
2)トレーディング
スピードが肝心で、瞬時の判断は人間に勝る。
3)不正防止
AIは我欲もないし、買収などもされない。
4)マネロン対策
幅広く取引を監視し、微妙な兆候を検知できる。
5)情報収集
テキストだけでなく画像や自然言語も処理でき、実用化された。
6)ロボットアドバイザー
投信販売などで、大量の顧客を捌くことができる。
7)融資サービス
融資先の判定(貸していいかどうか)も、私情なくできる。
8)接客業務
カネを生まない業務なので、合理化。みずほ銀はペッパーを採用。
9)コールセンター
これもカネを生まない。SMBCではワトソンを採用。BTMUはスマホアプリMAIを導入。
10)高度な情報提供
為替予測なども可能になり、顧客はローコストでサービスが受けらえる。
2030年には、銀行の支店にはATMも窓口もなくなり、行員は支店長ともう一人だけになると本書は言う。もともと金融業界はデジタル化の進んだ業界だが、まだDXの余地は十二分にあって、それが「ビッグデータ・AI・クラウド」の三種の神器で加速するとある。確かに銀行業界にはまだムダも多く、数自体も多い。加えて郵便局という競合もある。本書に言うような小手先ではない改革が求められているのは確かだ。
いい着想の書でしたが、サイバーセキュリティに言及していないのは問題ですね。三種の神器活用には「Security by Design」が必須ですよ。