新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

教師探偵キャロラス・ディーン登場

 英国にはまだまだ隠れたミステリー作家や探偵がいるものだと、本書(1955年発表)を読んで痛感した。作者のレオ・ブルースは、英国では名の知られた作家で、イングランドの地方都市を舞台にしたビーフ巡査部長シリーズを8冊、本書がデビュー作のキャロラス・ディーンシリーズを23冊発表している。しかし、いずれも数冊づつしか翻訳されず僕も以前ビーフ巡査部長も登場する「3人の名探偵のための事件」を紹介した以外の作品は読んでいない。

 

 のどかなニューミンスターでパブリックスクールの歴史教師を務めるキャロラスは40歳、10年前に結婚したばかりの若妻を空襲で亡くして以来一人暮らしだ。英国近代史が専門で、「誰が赤顔王ウィリアムを殺したか」という歴史探偵ものを出版したこともある。ミステリーの知識も豊富で、生徒たちは「名探偵」だと信じている。

 

 生徒(高2くらいか)の中にプリグリーという生意気な男の子がいて、先生を事件現場に引っ張り出そうと挑発する。ニューミンスターの街では、小間物屋をやっている老女が殺され、死体を見つけた巡回中の巡査も背後から撲殺されるという事件が起きた。この老女、人好きのするところは皆無で小間物屋は隠れ蓑、高利貸や人の秘密に付け込むゆすりがメインビジネスだ。

 

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 普通にお店を覗く人だけでなく、実の息子に対しても開口一番「金はあるのかい。なければ出ていけ」というほどの守銭奴だ。老女が殺されたのは深夜だが、その前日7組の訪問客がありいずれもひともめあった。犯人はその中の1組と思われたが、決め手は全くない。プリグリーに挑発されたキャロラスは、知り合いの警察官に協力も得て事件の捜査を始めるのだが・・・。

 

 素人探偵が事件の容疑者7組を順次訪問して「尋問」をするなど正直考えられないが、これが田舎のいいところなのかもしれない。細かな伏線が張り巡らされているのはわかるのだが、実に悠長な「捜査」で、ユーモアたっぷりの(英国風の)掛け合いもあってやや冗長に思う。

 

 ただ残り60ページになって以降の関係者を一堂に集めてのキャロラスの謎解き、事件のありようを180度ひっくり返すトリックを含め、なかなか立派な本格ミステリーだ。シリーズでも珍しい「大仕掛け」だと解説にありますが、本国で人気というのも理解できます。日本への紹介が遅かったせいですかね、もう少し読みたい作家です。