新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

トリックの女王・・・の娘

 TVの2時間ドラマの王様格の人(原作者)はたくさんいるが、女王と言えば恐らくこの人山村美紗だろう。以前名探偵キャサリンものをいくつか紹介しているが、金髪碧眼で巧みに日本語を操る主演女優を探すのは難しく、名探偵「希麻倫子」となってかたせ梨乃主演で放映されていた。

 

 「倫子」もの以外にも山村美紗サスペンスに頻繁に出演しているのが、作者の実娘山村紅葉。本書は、紅葉が母親のミステリー長編から好きなものを選ぶという企画で出版された最初の巻である。山村美紗は1996年に62歳の若さで亡くなったが、200編ほどの長編小説を遺した。

 

 舞台は作者がメインランドとした京都、嵯峨野の古い一軒家を改築した民宿である。この民宿は3年前にOpenしようやく経営が軌道に乗ってきたところ、三浦・桑田の2人の経営者は創業前からの約束で大学の同期生5人を招待していた。

 

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 7人は大学卒郷前に奇妙な約束をしている。5人の女学生が開業資金の一部を出資、3年後に再開して三浦・桑田の両名は5人の中から配偶者を選ぶ。選ばれなかった3人は出資金・配当に割増の手当てを貰って帰るというもの。招待された5人は、

 

 亜木子 普通のOL、本編の事実上の語り部

 歌子 アフロヘアーの派手好き娘

 千草 会社社長の娘、お金に不自由なく育った

 みどり OLだが職場の妻子持ち上司と不倫関係

 ユミ 知的だが美しくはないOL

 

 亜木子と歌子は東京から同じひかり号で京都に来たのだが、他の3人は少し前から京都に来て偵察をしたり怪しい行動をしている。もう、女5人の疑心暗鬼が始まっているのだ。三浦・桑田のプロポーズが出ないうちに、まずみどりが池に浮かんで死に、千草が密室で刺殺されるという事件が起きる。

 

 「トリックの女王」山村美紗は、小さなトリックを巧みに使う。本書でもその得意技は冴えるのだが、シチュエーションには無理があるような気がする。本書の発表1985年でも、東京の女子大生が3年後の2/5の確率のプロポーズを待つとは思えない。「当選」したとしても、小規模な民宿の女将さんである。その座を得るための血なまぐさい殺し合い・・・というのはいかがなものか。

 

 ちょっと古い感覚なのですが、その作品を娘さんが好きな長編に選んだというのがミソですかね。やはり女性に受けるシチュエーションなのかもしれません。