2018年発表の本書は、ジャーナリスト大野和基氏が世界の知の巨人8名にインタビューしてまとめ上げた、21世紀の世界の潮流。8名とは世界的に有名な、人類生態学者・軍事史学者・人材組織論の権威・分析哲学者・経済学者・元米国国防長官・女性地位向上の活動家・人種問題研究家である。
「北朝鮮の核ミサイル」の話題を除けば、これほど専門分野の違う「巨人」たちの意見も大筋で一致している。簡単に言えば、
・人類は豊かになっているのだが、そのことも(心理的)格差を拡大する要因である。
・人生100年時代はいいことだが、これによる摩擦や格差も存在する。
・AI時代になればさらにこの傾向が強まり、中間層は壊滅、働かない人たちが増える。
・女性活躍、黒人地位向上の方向だが、反動もあって特に米国で分断が深まっている。
というものだ。そして格差拡大、実質は豊かになっていくのだが相対的には貧困という感情が大きくなって、社会全体が不安定化し種々の(世代間・人種間・男女間・宗教間等)の分断が高まっていくということ。
本書は8名の「巨人」の思想的エッセンスを集めたものだから、彼らの著書の焦点をまとめてコンパクトに読めるというメリットを感じた。個人の生き方のレベルでいうと、ハラリ教授の「企業や組織は虚構だから、それに縛られず虚構なりに利用せよ」という言葉と、グラットン教授の「人生は教育・仕事・引退の3ステージではなく、マルチステージになる」という言葉はほぼ同義語だ。ひとつの組織の囚われていては、人生100年は楽しめないということだろう。
政治の世界でいうと、コーエン教授の「テクノロジーは、富を偏在させ中間層を没落させる」と、ウィリアムズ教授の「社会的階級格差が民主主義を揺るがしている」とも同じ意味だ。各国政府は「分厚い中間層の復活」を提唱するが、先進国でそれに成功した例はない。習大人の「共同富裕政策」が、今それに挑戦中である。
ダイアモンド教授の「現在の社会は資源を浪費している。地球資源の枯渇で文明が崩壊する。日本は人口減少に悩んでいると言うが、資源危機には人口減が役立つ」と言う言葉は、アイロニカルだが真実かもしれない。
知の巨人の思想をダイジェストしたこの本、結構お得感がありましたね。