新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ダボス人間的世界観への挑戦

 紫色に光る御髪と、ドスの効いた毒舌(!)が印象に残る論客、浜矩子氏。安倍政権を「妖怪アホノミクス」とコキ下ろし、「趣味は大量飲酒」とおっしゃる破天荒な経済学者である。本書は2017年の発表、安倍政権真っただ中で、米国にはトランプ政権が誕生、欧州は「Brexit」だけでなく「Frexit」など不協和音に満たされ、習大人も不気味な動きを見せ始めたころだ。

 

 これまで僕自身も、昨年末から各国の事情を勉強してきて、欧州から米国、中国、韓国まで一応国際政治の専門家の書を読んだ。それを通じて思ったのは、全て何らかのポピュリズムで政治が引っ張られているなということだった。筆者はその傾向を「大激転」といい、転換なら中立的だが激転は悪い方への変化だと言う。

 

 本書の冒頭、貧しいWASPの代弁者として現れたトランプ鬼はじめ欧州・中国の(極右・極左の)妖怪たちが列挙されていて、その中でも一番危険なのは「戦後レジームからの脱却」を掲げる妖怪アホノミクスだと仰る。このあたりまでは筆者の主張ポイントが不明だったのだが、中盤以降グローバル経済論になってぼんやり見えてきた。

 

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 筆者が敵視しているのは、「ダボス会議」に集まるグローバル経済第一主義者たちのようだ。彼らは世界経済が成長しさえすれば、格差が拡大しようが貧困で苦しむ人が増えようが関係ないとして行動する。その結果各国に、

 

・仕事を奪ったあの国が悪い。

・なだれこんできた移民が悪い。

無為無策な政府が悪い。

 

 というムーブメントが起きて、それを妖怪たちが利用して勢力を拡大しようとする。この時のポピュリズムを筆者は「扇動主義」と翻訳して、本来の「人本主義/人民主義/人民本位」とは似て非なるであると主張する。そもそも経済のグローバル化は、

 

・為替安定

・自由な越境資本移動

・自律的金融政策

 

 の3点を同時には達成できないゆえ、ダボス人間たちもそうだが各国政府は2つ目までを重視してきたという。筆者は3点のバランスのとれた政策を各国が採れるよう、過度なグローバリズムを批判する。例えばTPPなどは諸悪の根源というわけだ。しかし別稿で紹介した藤原帰一先生などは「TPPは日本が手にした宝石」との主張だし、僕もそれを支持する。

 

 世界をオーバービューしたポピュリズムの意味は、大変勉強になりました。しかし僕も半分くらいは「ダボス人間」で、グローバリズムは必然だと思いますけれどね。