新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

パリのペルシア人

 以前紹介した「I am Legend」が3度の映画化なら、1910年発表の本書は1925年を始めとして3度映画化、加えて1973年にはロックミュージカルでも映画化されているという古典。この文庫本が出たころには、「劇団四季」でも上演されていたらしい。作者のガストン・ルルーは新聞記者を経て作家に、1907年密室トリックで有名な「黄色い部屋の謎」でデビューしている。

 

 その後も青年新聞記者ルルタビーユを探偵役にした「黒衣婦人の香り」(1909年)を発表していたが、本書はミステリーではなくサスペンス&ホラーに位置付けられるだろう。

 

 本書の舞台となったオペラ座は、僕らもパリ旅行時に何度か通りかかった市の中心街にある「観光の目玉」。作中に出てくる「スクリーブ通り」など、ある意味懐かしい場所だ。1875年に竣工して、当時からパリを代表するところだった。物語はオペラ座の支配人2人が交代する会合(歓送会?)で幕を開ける。

 

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 旧支配人2人は新支配人たちに「この建物には幽霊が住んでいて、いくつかの条件を満たせば大人しくしてくれる」とひそかに告げる。その条件とは、

 

・2階の5番ボックス席は「幽霊の専属」とする。

・毎月2万フラン、年間24万フランを幽霊に支払う。

 

 というもの。「幽霊」は要求を呑まないと不幸な事件が起きるぞと言い、実際オペラの主演女優が歌えなくなったり、シャンデリアが落ちて人が亡くなったりする。一方オペラ座に出演中の歌姫クリスティーヌに恋した海軍軍人ラウル子爵は、兄フィリップ伯爵の止めるのも聞かず彼女に接近する。しかしクリスティーヌには影のように寄り添う何かがいた。

 

 前半の怪奇譚から、後半はラウル子爵の冒険譚に展開が変わる。ラウルは突然現れたペルシア人に助けられて、「幽霊」が潜むと思われるオペラ座の地下深くへ下りてゆく。ペルシア人は、「幽霊はパンジャブの輪差という絞首具を上手く使う男」だという。感覚的には投げ縄のようなもので、インドからペルシアに伝わったものらしい。そしてラウルはクリスティーヌをオペラ座地下の「湖」で見つけるのだが・・・。

 

 有名な作品なのですが、通して読んだのは初めてでした。「黄色い・・・」のような本格ものとは違い、異国情緒や男女の恋愛など作者が書きたかったことを思い切り書いたという気がします。パリは昔から国際都市だったのですね、勉強になりました。