新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

3人の財務省特別調査官

 米国には通常の警官の他、連邦捜査機関のFBI、海軍の捜査組織NCISなどがあって、独自の捜査を担当する。本書(1984年発表)には、財務省の特別調査官が登場する。国税庁ではないので、税務調査をするわけではない。主なターゲットは金融犯罪、特に偽札等の偽造犯だ。作者のジェラルド・ペティヴィッチ自身が、兵役後の15年務めたのが財務省秘密検察局。日本ではほとんど知られていない作家だが、本書を原作とした映画「LA捜査線」のシナリオも担当している。

 

 ロサンゼルスの闇の部分、麻薬や売春の陰に偽札作りという「産業」もある。長年この稼業をしているリックは、助手のカーマインと組んで貸倉庫で偽札を作り、何人かのディーラー(販路)を抱えてカスタマーサービス(注文に応じて印刷すること)をしている。しかしカーマインが大物ディーラーである弁護士に60万ドルほど届けた後、4万ドルを持ったまま逮捕されてしまった。

 

 一方LAの財務省調査官ヴコヴィッチは、無茶をするので有名なチャンスと組んでリックたちの犯罪を追っていた。2人は弁護士ディーラーの存在を掴み、ずっと張り込んでいる。その弁護士はリックには60万ドルは届いていないと言ってネコババを決め込んだのだが、それに気付いたリックは2人の調査官の目をかいくぐって、弁護士を射殺する。

 

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 もうひとり、定年間近の調査官ジムは、過去に3度リックを逮捕しながら、微罪で済まされている。逮捕の時に警告文を読み違えたとか、証拠集めに疑義があるというと「容疑者の権利」が掲げられて無罪となったり減刑されてしまうのだ。その規制は年々強くなり、官憲を悩ませている。

 

 定年前に何とかリックを挙げたいと、ジムは2人とは違う独自捜査を続け、カーマインを仮出所させて突破口を得ようとする。一方目の前で手掛かりを消されたチャンスは、ヴコヴィッチを巻き込んで違法捜査にのめり込んでいく。

 

 財務省調査官による偽札事件捜査を題材に、扱われているのは縛られた警察権力とその周りに蠢く奸智に長けた犯罪者と、それを助けて暴利を得る法曹界である。チャンスの違法捜査はエスカレートして、ついに破局が・・・。

 

 調査官のひとりヴコヴィッチセルビア移民の子、恐らく作者もそうだろう。原題は「LAで生きることと死ぬこと」、多様な人種の大都会での悲劇を描いた映画の原作でした。