新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

法人の検死報告集

 昨年から「COVID-19」騒ぎで経営苦境にある企業は多い。しかし政府支援もあって、倒産件数は少ない。本書(2017年発表)によると、リーマンショックが落ち着き始めた2009年から日本企業の倒産件数は減少し続けている。地方の若い銀行マンなど「倒産処理をしたことがない」人も増えてきているという。帝国データバンクで信用調査をしてきた藤森徹氏は、倒産減少はいいことだが倒産の原因や予兆を書き残しておきたいと本書をまとめたという。

 

 本書では30以上の法人の破綻を、主原因別に分類して整理している。主な「死因」は、

 

◆放漫経営、経営計画の失敗

 病院の倒産の30%は、経営能力のない院長のせい。その他に技術志向のベンチャー企業経営者が、分不相応の拡大投資をするケースも目立つ。

 

◆構造変化への対応誤り

 スマホゲームに食われたゲームセンター企業、航空券手配の仲介事業者、円安の原料費高騰で倒れた回転寿司チェーンなど、時流への対応ができなかった。ネット時代の急変化が読めなかったケースもあるが、単純なリスク管理ミスもある。

 

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◆ジリ貧の構造不況業種

 出版業界は消費者の書籍離れもあって厳しい業界、強すぎる依存関係で連鎖倒産も。呉服、和菓子、宝飾品などの特定業種では少なくなる客を奪い合う過当競争、ネット通販増加も追い打ち。

 

◆「財テク」が本業を食いつぶす

 金融知識のある経営者が招かれて、当初は持ち直すのだが、それに味を占めて「財テク」に走り元も子も無くすケース。企業として、財務部門や監査部門が機能していないと危険。

 

◆不正や詐欺などの犯罪がきっかけ

 産地偽装で高収益を上げたが不正を暴かれ倒産、取り込み詐欺で思わぬ負債を負って回復できず、「企業再生請負人」の評判のウラは巧みな不正会計など、加害でも被害でも、先行きは厳しい。

 

風評被害に抗しきれず

 優良な食品産業だったが、事業拡大した学校給食事業で異物混入騒ぎ。レピュテーション対応を誤って倒産。

 

 銀座のステーキハウスが東日本大震災原発事故で東京電力のお客さんが来なくなって倒産、と言う例もありました。お得意さんと言っても過度な依存は禁物ということ。

 

 不正も犯罪も、妨害行為や情報操作も今はインターネット経由でできます。法人のリスク管理の重要さをかみしめさせる書でした。