新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

「Post Truth」への危惧と対策

 2018年発表の本書は、インターネットメディアが従来メディアを凌駕し、その権化ともいえるトランプ大統領の誕生などの事態を受けて、ジャーナリストの津田大介氏が世に問うたもの。筆者はTV朝日などでもよく見かける、金髪のデジタルメディア論者である。

 

 デジタル屋生活の長い僕も、一般の市民がデジタルリテラシーを持つことは重要だと思っているし、基礎教育の必修項目にすべきだと思っている。リテラシーは非常に広範なものになるのだが、コンピュータの構造に係る知識などよりよほど重要なのが、本書で取り上げられている「メディアリテラシー」である。

 

 インターネット(SNS)社会では、情報はいくらでも手に入る。現実にTV・新聞・週刊誌といった旧型メディア、特に紙媒体のものはどんどん衰退していって、より手軽なデジタルメディアに頼る人が増えている。しかしデジタルメディアには大きな問題もあって、

 

・個人情報の不正利用や流出

・安易な著作権侵害

・不適切情報の投稿

・ケタ違いの拡散力

・拡散したら取り返しようがないこと

 

 などのほか、情報そのもののウラが取れていないケースも多く、著名人はシェアしたというだけで(中身を見ていない可能性もあるのに)盲信して拡散してしまうリスクが高い。

 

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 また意図的に誤情報を流すことも、非常に簡単にできる。

 

・800語のでっちあげニュースを書かせるのに$30

・動画サイトに2分の映像をUPするのに$600

・それに賞賛のコメントを100件付けるのは$3

・2,500人のフォロワーにリツイートさせるのに$25

・否定的なコメントを書き、各々5万回リツイートさせるのに$14,000/週

 

 2016年の米国大統領選挙だけでなく、上記のような情報操作へのハードルは低いため、各国の選挙に多用されていると本書にある。市民の分断が煽られ、極右・極左などが台頭する原因はここにもあるようだ。「Post Truth」はどこにでも転がっているのだ。

 

 このため各国でプラットフォーマーへの規制強化、彼ら自身の改革、フェイクニュース規制法の成立、建設的メディアへの注目や寄付といった対策が取られるようになった。ただAI時代でもありボットが自動的に「Post Truth」を吐き出すこともあって、対策は充分とは言えない。

 

 技術や制度では「Post Truth」は抑えきれません。市民のリテラシーがやはり重要ですね。