新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

帝国陸軍のアキレス腱

 第二次世界大戦後、米陸軍のある将軍は勝利に貢献した兵器として「ジープ・バズーカ・C47輸送機」を挙げた。M-4戦車も、P-51戦闘機も押しのけて、この3つが選ばれたのには理由がある。バズーカは歩兵の近接火力増強に資したし、他の2つは連絡・輸送などを迅速、確実に行うために大いに役立ったということだ。

 

 太平洋戦争中から米軍のジープを鹵獲して使用した帝国陸軍は、その簡易さや堅牢さに驚嘆したと本書にある。本書は元陸上自衛隊第9師団の兵器研究家高橋昇氏が、20年にわたって集めた、帝国陸軍軍用車両に関する資料から、仕様や図面、写真だけでなく開発・運用の裏話までが収められた貴重なもの。雑誌「PANZER」に掲載されたものを、光人社NF文庫から2000年に出版している。

 

 明治末期に軍用自動車(当時はトラックのみ)が輸入され、運用試験などの後実戦配備、国産車開発に至った経緯がコンパクトにまとめられている。代表的な国産車が「94式6輪自動貨車」。

 

・自重 3.4トン

・標準積載量 1.5トン

・最大馬力 70馬力

・最大速度 60km/h

 

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 この車両は後部の4輪を無限軌道(キャタピラ)に替えることも可能で、いわゆるハーフトラックとして運用もできた。これをベースに、多くの特殊車両が設計・製造・配備されている。例えば、

 

・気球の繋留車、運搬車、水素缶車

・無線修理車、通信路建築資材車

・野戦衛生(給水)車、動力作井車

 

 のような例がある。トラックのほかに将校用の乗用車、偵察車輛、オートバイ、サイドカー、砲兵牽引車から装甲車、装甲列車までが紹介されている。それらの多くは輸入品かそのコピーで、自動車の運転ができる兵士も限られていたこと、ガソリンそのものが潤沢ではなかったことから、日中戦争から太平洋戦争では目立たずに終わった。輸送や連絡の不十分さは、帝国陸軍のアキレス腱とも言えた。実は飛行場建設用の(コマツ製)ブルドーザもあったのだが、これも活躍はしていない。

 

 ジープを量産して多数配備し、ほとんどの兵士が運転できた米軍とは、根本的な国力の差があったことを「軍用自動車」の歴史は教えてくれる。以前「ドイツのマイナー兵器」などを紹介した光人社NF文庫には、本書を始めとする「入門シリーズ」があります。10冊以上持っているので、これから1回/月程度の頻度でご紹介していきたいと思います。