新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

グレイマン、DCに還る

 本書(2016年発表)は、「戦闘級のチャンピオン」マーク・グリーニーのグレイマンシリーズ第五作。CIAの優秀な「資産」だったコート・ジェントリーだが、なぜか米国の危険人物リストに入り「発見次第射殺せよ」との命令が出てしまっている。前作「暗殺者の復讐」では、ロシアからブリュッセルと欧州を逃げ回り、米国の民間軍事組織タウンゼントの傭兵たちと死闘を演じた。

 

 生き残ったコートには狙われる心当たりはなく、逃げ回るのも限界と考えてついに「反撃」に出る。前作の最後は、コートが大西洋航路に身を隠すところで終わっていた。本書は、その船がDC近郊に着いたところから始まる。

 

 CIAのNo.2であるカーマイケルは、長年工作機関の長を務める男。No.1は政治任用で入れ替わるから、実質的なTOPである。彼はCIAの部下たちにも知らせないいくつかの秘密を持っていた。その一つが中東との独自パイプ、イスラエルサウジアラビアイラクあたりに特殊な関係を築いていた。そのカーマイケルがコートをどうして目の敵にして狙うのかは、CIAの関係者すら理解できていない。

 

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 きっかけは6年前のトリエステでの単独ミッション、コートはチームリーダーの指示でアラブ勢力に囚われていたスパイを逃がすのだが、それがカーマイケルの逆鱗に触れたらしい。とはいえ当時のチームのメンバーは全員死んでいる。

 

 コートは当時の事を知る人物から問いただそうと、DCに戻ってきたわけだ。しかしそれを察知したカーマイケルは、CIAの特殊作戦部隊だけでなく引退していた殺し屋、サウジアラビアの秘密組織まで動員してコートを消そうとする。

 

 身ひとつ、無一文でDCにたどりついたコートが、武器・カネ・隠れ家を手に入れるプロセスが面白い。米国に対する危険人物とされながら、悪人以外は傷付けない。サウジの殺し屋たちが警官に化けて迫ってきた時も、大人しく捕まってしまう。彼らが偽物と確信してから手錠を外して反撃するほど。

 

 僕にとっても懐かしいワシントンDCの風情(特に地下鉄に乗るシーン)がちりばめられていると同時に、派手なアクションが炸裂する。最後はCIAの要塞に籠るカーマイケルを、CIAの武器庫で得た装備で急襲するクライマックスが待っている。

 

 ついに2冊組、合計800ページを超えてしまったこのシリーズ。面白いのでまだまだ探しますよ。