昨日、政府の内側から見た「日本のインテリジェンス機関」の活動を記した書(2015年発表)を紹介した。本書はそれから4年経ち、今度はジャーナリストの目で捉えたその現状と課題である。中心になって紹介されているのは内閣情報調査室、通称「内調」。官邸の直属組織で、TOPの内閣情報官は「総理とサシで、頻繁に会う」唯一の官僚である。筆者の今井良氏は、NHKのジャーナリスト。日本のインテリジェンス機関の実態を調べ、
・内調が第二次安倍政権の間に、総理とTOPの絆によって強化されていること。
・公安警察(警察庁)、公安調査庁(法務省)との権力争いをしていること。
・さらに外務省が「対外情報庁」の設立を考えていること。
など、霞ヶ関の思惑や内部抗争として全体を捉えている。本書のこのスタンスは、一般受けするかもしれないが、実態を歪めているような気がする。例えば公調は左翼過激派の脅威が薄れる中、オウム等へ対象を移し存続を図っているとしている。しかし、内調・公安・公調のいずれもが存在意義があり、本書にあるような「三つ巴の闘い」をしているわけではない。
日本はどうしても「対外情報能力」が低いので、これを設置して上記3機関をその傘下に置きたいという「夢」は理解できる。ただこれを外務省の権力闘争と見るのは、少し行き過ぎだろう。ジャーナリズムの立場からだろうが、政府機関に厳しい表現も目立つ。例えば、
・内調には250人のスパイがいて、安倍総理の手足となって・・・
・取材した内調プロパーのスパイDは、情報分析のプロで・・・
と「スパイ」と言う言葉を多用している。そのようなスタンスを除けば、本書は分かりやすい「日本のインテリジェンス機関」の解説書である。その活動実態をある程度紹介している以外に、彼らがどういう意識でいるか、対象がどういう狙いを日本に抱いているかが良く分かる。例えば中国の諜報機関の対日工作は、
・任務は、日本人民民主共和国の設立で、
・その力を利用、中国共産党の「世界解放戦」に奉仕せしめる
となっているという。このような企みをインテリジェンスの力で防ぐのに、縄張り争いをしている場合ではなかろう。またそれを誘発させるのも、中国の対日工作かもしれないのだ。対外情報能力の向上は、現政権の最大の課題かもしれませんね。