新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

更生不能中年男性の死

 南カリフォルニア、サンタ・テレサの私立探偵キンジー・ミルホーン(わたし)のシリーズも4冊目(1987年発表)。作者スー・グラフトンは温暖で比較的富裕層の多いカリフォルニアでも、80年代の米国の病理が大きな影になっていることを看破する。前作「死体のC」では、富裕層ながら壊れた家庭とその中で傷つく青年を描いた。それに続く本書は、犯罪を繰り返すアル中患者を中心に据えて、物語を展開する。

 

 キンジーを訪れた50歳代のくたびれた男性依頼人は、25,000ドルの小切手を15歳の青年トニーを探して手渡してくれという。依頼金400ドルも小切手で切ったのだが、それはたちまち不渡りになる。依頼人の残した銀行口座などの手掛かりから男の住居を突き止めたわたしは、依頼人の本名がジョン・ダギットであることを知る。

 

 ジョンは泥酔した状態で5人を死なせる交通事故を起こし服役していたが、2週間前に仮釈放になっている。すでに子供のような年齢の愛人も囲い、多額の口座預金を持つなど不審な点が多い。調べて行けば行くほどジョンは、何度も踏み倒しを繰り返す常習詐欺師(原題のDeadbeat)であることがわかる。

 

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 ジョンはロスアンジェルスに居を構えていたが、刑務所で知り合った青年ビリーがサンタ・テレサに住んでいてこれを訪ねたついでにキンジーの事務所に来たらしい。このビリーも両親の離婚、父親の再婚、連れ子・継母との関係からグレ、ついに「更生不能未成年」とされてしまった。15歳からの9年間で、7年は刑務所にいるのだ。

 

 やがてジョンの遺体がサンタ・テレサの海中で見つかる。泥酔していたことから警察は事故死とみるが、彼を巡る複雑な事情からキンジーは殺人だと考える。青年トニーの両親と妹は、ジョンは事故で殺してしまったうちの3人だった。ジョンが小切手を渡そうとしたのは償いか?それとも何か理由があるのか?そもそもそのカネを刑務所からでたばかりのジョンはどうやって手に入れたのか?妻や愛人から小金をせびって酔いつぶれることと、借りを踏み倒すことしかできない更生不能中年が・・・。

 

 前作とは一転して貧困層の生活、DVや家庭内のトラブルを作者はヴィヴィッドに描いてゆく。そしてキンジーは足元もおぼつかないジョンを海にいざなったブロンド女がいることを知る。そして最後にキンジーは悲劇的な結末を見ることになります。うーん、ちょっと暗かったですね。