新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

自ら批判されたいと思っているモノ

 以前「未来を読む」を紹介したジャーナリスト大野和基氏の、これも7人の経済学者のインタビューした「21世紀の資本主義論」(2019年発表)。前作同様AI等のテクノロジーが現在・近未来にどう影響を与えるかの、経済問題篇である。すでに地球上にフォロンティアなき今、資本主義は死んだとする説もあるが、7人の経済学者は資本主義そのものの未来は疑っていない。

 

 ここで論じられているのは、修正資本主義が主流。格差問題・一部の人への富の集中は好ましくないとして、ベーシックインカム(BI)などの再分配施策を望む学者が多い。BIは、最低限の生活ができる額という人もいれば、それに満たない額で良いという人もいる。BIがあれば人が働らかなくなることはないとして、BI+3H/Day労働を主張する歴史家ブレグマン氏もいる。

 

        f:id:nicky-akira:20210930112246j:plain

 

 成長し続けることが資本主義の宿命と「誤解」している人も多いと主張するセドラチェク教授は、シュンペーターが「資本主義は批判されたがっている」と言った言葉を引用し、たまたま近代成長しただけで資本主義だから成長しなくてはならないというのは間違いだとする。富は充分にあり、偏在しているだけだとの意見だ。

 

 AI等のテクノロジーが人間の仕事を奪うかの質問に対しては、そうではないとの回答が主流。テクノロジーの進展によってなくなる職種もあるが、新しい仕事が生まれるという理屈だ。

 

 ただ文化人類学者グレーバー教授は「どうでもいい仕事」が増えると言い、

 

・人に権威を持たせるだけの仕事

・不具合が起きた時だけのための専門職

・何もしていないのにしているかのように見せる人

 

 などが、社会を蝕むと主張する。「COVID-19」禍で顕著になったことだが、ある種の中間管理職は実は不要だったというのは、同教授の主張を裏付けているのかもしれない。

 

 面白かったのは、オックスフォード大のショーンベルガー教授の「データ資本主義」。貨幣は相対的に価値を下げ、代わりにデータが中心の資本主義が台頭しているという。だから旧来の資本家よりも、新興のGAFAなどがその保有するデータを駆使して経済に大きな影響を与えているとの主張。同教授は「データ納税」という制度を提唱していて、GAFA等がデータを囲い込み過ぎないように考えている。

 

 知の巨人7人が語る「未完の資本主義」論、とても面白かったです。