ロバート・B・パーカーという作家は、本当にストーリーテリングが上手いと思う。好評のスペンサーシリーズはもちろんだが、ノンシリーズの面白さは別格だ。以前初の黒人大リーガー、ジャッキー・ロビンソンが登場するノンフィクション風ハードボイルド「ダブルプレー」も賞賛した記憶がある。
また作者のレイモンド・チャンドラーへの思い入れは並々ではなく、チャンドラーが4章まで書いて亡くなってしまった「プードルスプリングス物語」を書き継いで完結させている。主人公はもちろんフィリップ・マーロウだ。
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ただその作品の評価は分かれていて、面白いとも言われたがマーロウと違うとの批評もあったらしい。それに応えるように作者が書き下ろしたのが本書(1991年発表)である。チャンドラーのデビュー長編「大いなる眠り」の続編という設定で、冒頭に「大いなる眠り」の最終部分を持ってきている。マーロウが関わり合うスターンウッド将軍家の人物(長女ヴィヴィアン、次女カーメル、執事のノリス)は、そのままの設定だ。
美しいが精神不安定な娘カーメルは、精神病院に入院していたのだが謎の失踪を遂げる。将軍が亡くなっていたたため家を取り仕切るノリスは、マーロウにその行方を探すよう依頼する。1ドルで依頼を引き受けたマーロウはさっそく入院していた病院のボンセンティール院長を訪ねるのだが、何も手がかりを得られない。
病院そのものが怪しげで、地元新聞社や地方検事局などの協力を得て捜索を進めるマーロウに「女を探すな」との圧力がかかる。例によって警句をつぶやきながらひるまないマーロウだが、相手の石油王は市長も知事も州議会も影響下に置く大物、検事局や警察も手が出せない。
「ただカーメルを探しているだけなのに」マーロウは、再三危機に見舞われる。解説では作者はよくチャンドラー節を再現していると褒めているが、この悪役設定は大物過ぎるという。僕は作者にそのくらいの裁量の余地は認めてやってもいいと思う。スペンサーなら、もっと大物でも倒すのだから。
作者のチャンドラー愛、ハードボイルド愛があふれていて、にもかかわらずとても滑らかなストーリー展開です。作者のうまさが光る作品でした。