新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

川上産業としての半導体

 経済安全保障の議論の中で注目されているのが「半導体産業」。かつて日本企業の世界シェアは5割を超え「ソ連の後の主敵は日本」と米国に脅威を与えたのだが、今や半導体バイスの生産ではシェアは1割もない。そこに世界的な半導体不足の波が来て、政府が支援に乗り出す事態になっている。

 

 著者の牧本次生氏は、日立・ソニー半導体事業部門のTOPを務めた人。「一国の盛衰は半導体にあり」(2006年)という著書もある。著者の主張はその書の題名通りなのだが、半導体産業への注目が集まる今緊急出版されたのが本書。

 

 今の半導体不足は複合要因によるもので、

 

・「COVID-19」禍でPC・ゲーム機等の需要増

・テキサス(インテル)茨城(ルネサス)の工場被災

・米中対立(Huawei排除等)による駆け込み需要増

 

 などが重なったからとある。産業としてボラティリティの高さなどで嫌われる傾向のある半導体バイス産業だが、本来川上から川下までのセットとして捉えるべきだという。今でもフッ化水素などの材料・素材や半導体製造装置の日本企業シェアは高い。しかし川下の電子機器産業が日本で減ったため、中間にある半導体バイス産業が衰退したわけ。

 

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 半導体バイス産業がシェア5割を誇った時代には、日本の電子機器産業が強かった。その中心は家電だが、その後、PCやスマホ半導体需要の中心が移って行き、日本企業はそこではシェアを獲得できなかった。しかし今、ロボット等の新しい需要が出てくるので、日本の半導体産業復活にはこの種の需要を取り込む企業が登場する必要があるとの主張だ。

 

 半導体技術者として「半導体産業」のほぼすべての時代を見てきた著者ゆえに、本書には黎明期から現在までの主要技術・政府の政策・企業内での課題などが全部詰まっている。

 

 性能は遅いが省電力なCMOS技術、飛躍的に進む微細化、米国・中国・韓国・台湾等の政府支援、標準化とカスタマイズの間を揺れる業界動向、筆者の名を冠した「牧本ウェーブ」というシリコンサイクル・・・。

 

 かつて「産業のコメ」と言われた半導体だが、今や「現代文明のエンジン」だという。やや手遅れだが、日本政府が半導体産業支援(議連や助成金など)をしてくれるのはいいことだと筆者はいう。しかしTSMCが台頭したように、デジタル産業は水平分業化が進んでいます。どこまでを日本国内でやるべきかは、議論が必要でしょう。