新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

記念すべきクイーン父子登場作

 本書は(S・S・ヴァン・ダインはいたものの)米国ミステリー界を大きく飛躍させる新世代を拓いた1冊である。1929年、いとこ同士で24歳だった2人が共著したもので、ある雑誌の懸賞に応募し当選したもの。雑誌は廃刊になってしまったが、単行本として陽の目を見ている。

 

 フレデリック・ダネイとマンフレッド・リーという二人は、作中の探偵(推理作家でもある)の名前と同じエラリー・クイーンという筆名に隠れて、しばらくは本名を明かさなかった。後にバーナビー・ロス名義で「悲劇シリーズ」を書いているが、クイーンとロスが同一(同二か?)人物であることは、長く秘匿されている。

 

 本書について批評家は「ヴァン・ダインの手法を踏襲しながら、度が過ぎたペダンティックさはなく、読みやすい本格ミステリー」と称賛した。演繹的で華麗な推理と地道な警察活動の融合は、犯罪者や容疑者の内面についての掘り下げが少ないという批判があっても、多くの読者を惹きつけることになる。

 

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 ニューヨークのローマ劇場では、大当たりの芝居「ピストル騒動」の興行が続いていた。その第二幕の最中に、弁護士モンティ・フィールドが毒殺された。被害者に息があるうちに事件が発覚、現場の警官が直ちに劇場を封鎖したことで、容疑者は観客と劇場関係者に絞られることになる。

 

 大当たりの芝居なのに、被害者の指定席周辺7席が(切符は売られていたが)空席だったことで、犯人か被害者のどちらかが秘密の会合を持とうとしていたことがわかる。そして夜会服姿の被害者の周辺には、付き物のシルクハットがなかった。現場指揮官のクイーン警視に呼び出された息子のエラリーは、シルクハットがないことから大胆な推理を展開する。

 

 デビュー作の時点では、経験豊かな捜査官クイーン警視と、推理力・想像力豊かな息子のエラリーという2人をコンビとして平等に扱っている。現に謎解きも探偵が関係者を集めて大団円を演じるのではなく、犯人逮捕後のクイーン警視が地方検事サンプスンらに(エラリーの推理とそれを裏付ける捜査)を説明する形で行われる。エラリーはメーン州の森に出かけていて、犯人逮捕や謎解きには参加していない。

 

 「Xの悲劇」で始まった僕のミステリーマニア行、中学生の時に決定づけたのはこの「国名シリーズ」でした。50年ぶりの再会、懐かしかったです。