「小さな政府」を標榜して、レーガン・サッチャー改革、日本では評判の悪い小泉・竹中改革を支持しておられるのが塩野七生さん。これまでにも何冊か著書を紹介しているが、本書は中世フィレンツェの政治家ニッコロ・マキャベリの遺した言葉を、著者の感性でピックアップしたもの。マキャベリの代表作と言われるのが「君主論」と「政略論」だが、もちろんこれらの完訳日本語版は出版されている。しかし著者はそのエッセンスを、この薄い文庫本に収めてくれた。
イタリア半島の内陸に位置し、山がちで決して豊かではなかった都市国家フィレンツェ。そこに300年続く繁栄をもたらしたのは、マキャベリの内政・外交(&軍事)政策だと言われる。本書の冒頭「マキャベリの生きた証を書くこと」と著者は言い、その遺した文書を読むだけで多くの知見が得られると本書の意義を説明している。
「君主論」の中でマキャベリは「君主の敵は内外にあり。これを防ぐには防衛力と友好関係だ」と述べている。国家については、自らの安全を自ら守る意志と力を持たないものは滅びると断言している。憲法9条盲信派の人達に、ぜひ聞いてほしい言葉だ。
新興国の君主がなすべきことも列挙されていて、これは現在に至るも色あせない真実である。例えば、
・敵から身を護る方策を建てる
・味方を獲得しネットワークを張る
・策略に拠ろうが力に拠ろうが、まず勝つこと
・民衆からは愛されると同時に怖れられること
・厳格であると同時に、丁重・寛大・鷹揚であること
・旧体制を新しい方法で変革すること
など、軍事に限らず「COVID-19」禍への対応にも応用できそうな教訓だ。
本書は、君主編・国家編・人間編の3部構成で、人間編では友人の選び方や人間の力量の見分け方まで紹介してくれる。軍隊の力量も同様に図ることができ、
・将兵の戦力は、数よりも戦意にかかる
・あまりにもあっけなく勝利した軍は勝ちにおごる
・まず敵軍の弱い部分から叩く
・なるべく多くの将軍の意見は聞くべきだが、決定事項は限定メンバにしか知らせない
など軍隊の運営についてまで、アドバイスをしてくれている。中にはスペインへ外交官として赴任する友人にあてた手紙で、外交官の心得・本国へのレポートの仕方なども丁寧に記述してある。
これは一般企業でも十分に役に立つ不滅の内政・外交教本ですね。本書は常に手元に置いて、参照するようにします。