新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

探偵小説はやはり短編

 ミステリーの始祖エドガー・アラン・ポーが残したのは、20~50ページほどの短編ばかり。その後「月長石」のような600ページ以上の長編も出るのだが、初期の頃どうしても本格ミステリーは短編が主流だった。本書はアーサー・コナン・ドイルの最初のシャーロック・ホームズものの「長編」である。

 

 以前「バスカーヴィル家の犬」を紹介しているが、ドイルはホームズものの「長編」を4編書いた。ただ本書などは前半100ページでホームズが意外な犯人を捕まえてしまい、残り80ページは連続殺人の原因となった40年前の事件が描かれる。

 

 ホームズの最初の登場とあって彼についての詳細な紹介があり、かれの推理が意表を突くケースを2~3のエピソードとして紹介した上でのことで、事件そのものの記述は50ページくらいだろうか。天才探偵はごちゃごちゃ考えず、すぐに真相を見抜いて急転直下の解決をする。解決してしまったら、拍手が鳴りやまないうちに幕を下ろしたいのだ。

 

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 アフガン帰りの元軍医ワトソン博士は、ひょんなことからホームズという特異な能力を持つ男と同居を始める。ホームズのもとには警察からも協力要請が来るほど、かれの探偵としての能力は高い。今回は変死した米国から来た男の事件の助力を求められる。

 

 現場周辺に残された足跡や馬車の車輪の跡などから、ホームズは「犯人の身長は6フィート、赤ら顔の壮年男性、インド産の葉巻を吸う」とプロファイリングする。現場には血文字で「RACHE」、ドイツ語で復讐の意味の文字が残されていた。スコットランドヤードの優秀な刑事2人が張り合って事件を追ううち、被害者と一緒にホテルに滞在していた男の死体も見つかる。「複雑な事件だ」と2人の刑事が嘆く中、ホームズは犯人を呼び寄せて見せる。

 

 まだホームズ・ワトソンのコンビのやり取りもどこかぎこちなく、ホームズの奇人ぶりとプロファイリングの芸が際立って見える。論理的な推理とは言えないような「あてずっぽう」もあるのだが、これまでこのような技術を見ていなかった読者は魅了されただろう。高校生の頃に読んで本当に久しぶりに読み返した本書、確かに近代ミステリーの聖書ではありますが、あらためて「本格ミステリーは短編に限る」を認識させてくれました。