新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

「タックスヘイブン」の仕組み

 2016年4月、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が、パナマにある法律事務所<モサック・フォンセカ>から流出した1千万件を超えるデータを公表した。いわゆる「パナマ文書」である。この法律事務所は違法・合法すれすれの租税回避措置などを扱っていた、世界第四位の事業体。文書には多くの国の元首・元元首らが、いかに不正蓄財をしていたかの証拠が詰まっていた。

 

 アルゼンチン大統領・サウジアラビア国王ウクライナ大統領らと並んで、プーチン大統領に近い人物・習大人の義兄・キャメロン英首相の父親などの名があった。政治家だけでなく、サッカーのメッシ選手や俳優のジャッキー・チェンの名前も報道されている。租税の(著しく)安い地域で、租税回避をしたり蓄財、マネーロンダリング等が行われていることは常識だったが、それがリアルデータで証明されたことに世界は衝撃を受けた。

 

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 本書は「パナマ文書」公表の翌月、緊急出版されたもの。著者の渡邉哲也氏は経済ジャーナリスト、「ヤバイ中国」などの著書がある。本書の後段は、世界の趨勢として租税回避をできにくくする、非合法組織の資金源を断つ、日本としては暴力団を締め上げる機会とするなどの「これから起きること」の予測が多い。

 

 また英中の蜜月関係を取り上げ、香港のHSBCが起点になって両国の関係に影が生じるなどと訴えている。これらの「予測」はあまり当たっているとは思えないが、前段の租税回避措置のやり方については勉強させられる。例えば英領バージン諸島は、租税回避のための特殊な法人を作り、運用しやすい環境にある。

 

法定通貨はドル

・会社設立には政府の認可は必要ない

・会社設立のためには取締役1人がいればいい

・取締役は法人でもいい

・現地には代理人だけいればいい

 

 だから専門業者(上記の法律時事務所等)を使えば、設立には24時間で十分。年間の運用コストは10万円程度だという。

 

 こんな地域は世界にいくらでもあり、今を時めくファイザー社もかつて米国(税率40%MAX)から、買収したアイルランド(税率12.5%)企業の拠点に本社を移している。EU内でアイルランドルクセンブルグが企業に人気なのは、そういう理由。GAFAなどがそれを見逃すはずもない。

 

 裏経済学のことを教えてくれる入門書のような本でした。といって、僕個人には縁のない世界ですがね。