新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

人間にとって経済とは何か

 2016年発表の本書は、マクロ経済学吉川洋東大名誉教授が、人口減少ペシミズムを打破する意図で書かれたもの。とかく人口減少続く日本では「失われた30年」もあって意気消沈していると、筆者には見えたらしい。

 

 本書で筆者は、紀元前5,000年まで遡っての人類の人口推移や、18世紀マルサスの「人口論」、19世紀ジョン・スチュアート・ミルの「ゼロ成長論」からケインズ、ピケティに至るマクロ経済学の歴史を追って「人口減少は悪か?」を問うている。

 

 本来体重60kgほどの雑食性哺乳類が繁殖する上限は、1.5人/1平方キロだとある。しかし人類はイノベーション(石器からICTまで)を起こすことで、この限界を打ち破った。人口は戦争や飢餓、疫病らによって減るもあったが、総じて増え続けた。マルサスは経済成長によって豊かになれば、多くの子供が育てられ人口が増えると説いた。

 

 しかしミルの頃にはすでに経済成長に陰りが見え、格差も大きくなったことから、成長はゼロで(衰退しなければ)いいとして、分配が重要だとした。今の「新自由主義批判」や、「共同富裕論」など、200年以上前から論じられてきたのかと、素人の僕は驚いた。その後ケインズの公共事業論や、ピケティの格差是正論がやってくる。

 

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 マルサスのころには食糧供給が経済活動の大半だったが、その後は「種の保存」を超えた刑事活動が非常に大きくなって、経済成長すれば人口が減ることになった。ただ医療の向上で、寿命は著しく延びた。筆者は多くの論者を紹介しながら、いくつかの主張をしている。

 

・「贅沢」は経済を回すための必須要件

GDPはグローバル時代には不完全な指標だが、有用ではある。

・日本の高齢化は、生命体としての限界に近づきつつある。

イノベーションを続ければ、少子化日本でも経済成長する。

・日本の問題は企業が内部留保を増やし、冒険をしないこと。

・本来、家計の貯蓄が増え、企業はそれを借り受けイノベーションへ投資すべき。

 

 最後は「人間にとって経済とは、種の保存の領域を大きく超えた集団的代謝機能」と結ばれている。余談的に扱われているが「哺乳類は心臓が15億回鼓動すると寿命」という一説。人類ではそれは40歳代半ばだとある。あー、やっぱり僕の今は「おまけの人生」だったのねと納得しました。