新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ヒコーキ博士佐貫亦男

 世に「ヒコーキ」というものに憑りつかれた人は少なくないが、そのなかでも大物が本書たちの著者佐貫亦男博士である。東大航空学科卒、陸軍の97式戦闘機のプロペラ設計を担当している。その後ドイツへ出張、戦争の激化により帰国できなくなり1943年末までドイツで暮らしていた。戦後は気象庁風速計の設計をしたり、日大教授となって後進を指導した。

 

 専門の航空工学はもちろん、生物学やドイツアルプス山歩き、ドイツ製カメラについての著作もある。「ヒコーキ」に関する著作で代表的なものが、本書たち。「ヒコーキの心」には続編と続々編があって、いずれも68機種を取り上げ文庫4ページ/機である意味マニアックな解説をしてもらえる。続々編は入手できていなくて、いずれとは思っているが今回は正編と続編を紹介したい。

 

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 著者は各機の紹介文におおば比呂司のイラストが付けられたことを、「綺麗に塗装してもらった」と表現している。実機など残っているはずものない機体が多く、読者にその機種をイメージしてもらうのには同氏のイラストがベストだったということだ。

 

 正編の表紙に描かれているのは、第一次大戦中のイギリスの複座戦闘機ブリストル・ファイター。偵察機を兼ねた機体だが、構造上直下は見えない(偵察できない)欠点があった。しかし機体が小型なわりに大きなプロペラを持ち、ロールスロイスエンジンの高性能もあって高い戦闘力を(複座ながら)示したという。

 

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 続編の表紙に描かれているのは、ご存じ「レッドバロン」ことリヒトフォーヘンの三葉戦闘機フォッカーである。同じ翼面荷重を得られながら小型にできるので空戦性能に秀でていた。著者はドイツに滞在していた1941年にベルリンの航空博物館で、リヒトフォーヘンの銅像とともにこの機種を見たという。

 

 レシプロ複葉の戦闘機から、水上偵察機飛行艇、急降下爆撃機雷撃機、重爆撃機夜間戦闘機B747ジェット輸送機まで、およそ僕の知っている機体は全部収められているし、知らない機体も多い。加えてその機種の戦歴よりも設計の細かなこだわりや、整備員泣かせだったことなど失礼ながらその「雑学」には頭が下がる思いである。視点はヒコーキと人間のインターフェースにあるようだ。

 

 ちょっと遠ざかっていますが、また飛行機に頻繁に乗れるようになったら本書のこだわりを思い出してみることにしましょう。