新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

軽口と言葉遊びが一杯

 1984年発表の本書はW・L・デアンドリアの第6作、巨大TV局<ネットワーク>のもめごと処理担当副社長マット・コブが登場するシリーズとしては第4作にあたる。前作で自身の故郷に出かけて事件を解決したマットだが、本書ではホームグラウンドのニューヨークで自社の施設であるスケートリンクで起きた殺人事件に挑む。

 

 スケートリンクでは連日アイスショーが行われていて、21歳の日系プロスケーターであるウェンディ・イズミが主役を務めていた。深夜誰もいなくなったはずのリンクで、老人がひとり刺殺されていた。深夜残業をしていたマットは、死体発見直後に現場に駆け付ける。

 

 被害者は、有名な精神科医Dr.ディンカヴァ。といっても医師として高名なのではなく、ベトナム戦争当時から長く反戦活動をしていたという男。反戦組織のテロや殺人に関する裁判で被告たちを支援するために獅子奮迅の活躍(!)をして、世間の注目を集めた。80歳にもなり「活躍」は目立たなくなったが、敵が多いことに変わりはない。彼は腹を刺され大量出血しながら氷の上を這い進み、星条旗を掴んで死んでいた。旗の上のワシの像を握りしめて。

 

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 ただこのリンク、わずかな関係者以外は深夜に出入りすることはできない。同じ夜マットの部下の一人が路上で襲われ、財布や鍵束を盗まれた。鍵束の中にリンクの夜間出入口のものもあり、ひょっとすると犯人はそのカギで入ったのかもしれない。

 

 星条旗とワシの像に託されたダイイングメッセージが、本書のキー。馴染みの警官や<ネットワーク>の仲間たちと軽口を叩きながら、マットはメッセージを解こうとする。ワシを国旗に使っているのは、米国とポーランド、それにナチスドイツ。ナポレオンやローマ帝国もそうだったと「推理」が広がる。

 

 「元ナチのポーランドアメリカ人を探せ」などと冗談をとばすマットだが、ウェンディの友人のスケーターが毒殺されるに及んで本腰を上げることになる。ウェンディと親密になったマットは、毒殺はウェンディを狙って相手を間違ったのではないかと考えたのだ。

 

 作中にエラリー・クイーンの名前も出てくるように、クイーン仕込みの「言葉遊び」はかなり徹底したもの。加えてスペンサーものに通じるような軽口の連続がこのシリーズの売りである。この作品はミステリーとして前作ほどの出来ではないのですが、軽口と言葉遊びを堪能できることは間違いありませんね。