新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

西ドイツからの木彫りの動物

 昨日紹介した「サディーが死んだとき」から2作空けて、1974年に発表された「87分署シリーズ」が本書。これもボロボロの装丁で買ってきた。舞台は真夏のアイソラ(架空都市)、刑事部屋にはエアコンもなく扇風機が生ぬるい風を送ってくるだけ。この時期には、刑事と言えども2週間ほどの休暇をとる。キャレラとホースは休暇明け、半分以下の出勤率の刑事部屋で、書類整理に忙しい。

 

 キャレラにかかってきた電話は、倉庫が燃えてしまって保険金を受け取るには警察の口添えが要るというもの。先週パーカー刑事が担当になって、そのまま休暇入りしてしまった事件だ。グリムという輸入業者はドイツから輸入した木彫りの動物人形を50万ドル相当を、倉庫ともども灰にしてしまったという。

 

 自然出火ではなく放火のようで、当直の警備員2人は睡眠薬を呑まされていた。やる気ないパーカー刑事から引き継いだキャレラとホースが捜査を始めると、グリムの自宅が放火され、睡眠薬を呑ませたと思しき警備員仲間の男は射殺されてしまった。被害者の周辺には麻薬中毒の黒人、その情婦、不良グループ(しゃれこうべ団)の影がちらつく。中毒患者ハーロッドを追ったホースは、83分署管内でハーロッドが殺されているのを見つける。

 

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 そこから83分署の刑事オリーとの共同捜査が始まるのだが、2m近い大男で太っちょ、下品な口を叩きすぐ暴力を振るうオリーにホースは辟易する。ホース自身も大男だが、牧師の息子であり品性は保っている。余談だがホースは刑事部屋の中で唯一の紅茶派、僕のひいきの刑事である。

 

 ただオリーのでたらめに見える捜査も、ダイヤモンドバック社という大物を探り当てる。アイソラで大規模再開発を複数手掛ける開発事業者で、このところ急成長していた。日本流に言えば「地上げ屋」である。同社の監査役は売春組織を仕切っているようだし、他の役員も前科を持っていて怪しい行動をしている。オリー、ホース、キャレラが個別の捜査をしてより合わせると、そこには大規模な組織犯罪が見えてきた。木彫りの動物人形に隠されていたものは・・・。

 

 本編の終わりにホースが「でかい豚のようなヤツ」と思っているオリーが、「87分署はいいな、転属願いだそうかな」と言って終わる。さて、その願いは叶うのでしょうかね?