新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

日本人が忘れた「武」の摂理

 今、ウクライナ義勇兵を求めていて、応募する日本人もいるという。多くは自衛隊の経験者、特殊部隊にいた人もいるに違いない。2016年発表の本書は、海上自衛隊の特殊部隊創設者である伊藤祐靖氏の著書。柘植久慶の小説に、戦闘能力の高い日本人が海外で大暴れする話があるが、実際にそんな人がいたのかと驚かされた。

 

 著者は並みの自衛官ではない。父親が中野学校出身で、終戦時18歳。上官からマッカーサー暗殺を指示されていて、終戦後も指令がいつ復活するか分からないのでマッカーサーが病死するまで心身の鍛錬を絶やさなかったという。

 

 父親の薫陶か、血筋か、日体大特待生だった著者は、アスリートにはならず海上自衛隊に入隊する。防衛大学校の指導教官などを経てイージス艦みょうこう」の航海長となり、1999年の「能登北朝鮮工作船事件」に遭遇する。速力・火力共に圧倒的な「みょうこう」だが、停止させた工作船に乗り込んで臨検する能力はない。強行すれば多くの犠牲者を出すだろう。しかし、相手は拉致された日本人を乗せているかもしれない船。結局、そんな船をみすみす逃がしてしまう。

 

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 その反省から海上自衛隊も精鋭の特殊部隊を創設することになり、筆者はその実践訓練・指揮を担当した。外国の特殊部隊(米国ではない)から学び、訓練を重ねるうちに日本人が忘れていた本当の「武」を思い出すことになる。

 

・父親は「暗殺は簡単だ。殺す以外のこと(逃げる等)を考なければいい」と言った。

・戦争状態ではない時に、相手を殺さなくてはいけない。メンタル面の強化要。

・マト撃ちがいくらうまくてもダメ。殺せるよう撃つのこそが「照準」。

 

 日本の自衛隊はダメな兵隊は全くおらず、平均水準は高い。米国の軍隊はダメな兵隊も多く、水準が低い。だからこそ(使える兵力として)特殊部隊が必要だったとある。しかし自衛隊は実践経験していないし、その場も得られない。

 

 そう考えた筆者は除隊して、ひとりミンダナオ島に渡る。治安の悪いその島で逢った20歳そこそこの娘に、生きる摂理を教えられる。彼女は射撃・格闘・水中戦闘のプロで、民族が生き残るための「武」を身に着けていた。

 

 「武」は簡単に使ってはいけない。国の紛争も極力回避すべきだが、やむを得ぬときは冷静に「武」を行使して相手を倒す。そんな思想や摂理が本書には満載。憲法改正論もありますが、並のそれとはレベルの違う真理のようです。