新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ロシアのグレイウーマン

 2017年発表の本書は、マーク・グリーニーの「グレイマン」シリーズの第六作。前作「暗殺者の反撃」でDCに戻り、自分を「発見次第射殺」の対象としていた勢力を駆逐し、CIAに復帰したコート・ジェントリー。今は「好きな仕事だけ引き受ける」立場にある。復帰して1ヵ月、最初の仕事は香港へ飛ぶことだった。

 

 新しくCIA国家秘密本部長に就いたハンリーと、その部下の戦略分析官スーザンの配下として、中国から逃亡しようとしている天才ハッカー范青年を救出する任務だ。范の所属は人民解放軍総参謀部第二局61398部隊、この部隊は実在し2014年には米国が「原発・鉄鋼等の企業へのハッキング」を罪状として、5名の士官を告発している。

 

 国家への忠誠が必須のこの部隊、要員は家族を人質に取られていて裏切れないようになっている。しかし范の両親が事故死(?)し、他に身寄りのない彼は勧めによって出国を決意したのだ。台頭する中国の貴重なインテリジェンス源である彼には、米国だけでなく多くの国が触手を伸ばす。もちろん逃げられたと知った中国も、国家安全部の部隊を投入して身柄を確保しようとする。

 

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 范を逃亡させた組織は、ヴェトナムの闇組織を使って彼を香港からホーチミンへと移送する。実はコートには、CIAに教えていない問題があった。以前命を救われた英国の傭兵隊長フィッツロイが、中国国家安全部の手に落ちていて、彼のためにも范を見つけなければならないのだ。国家安全部はフィッツロイを死なせたくないなら范を殺せというし、CIAは彼を米国に連れ戻すことを期待している。

 

 さらにロシア対外情報庁(SVR)の精鋭部隊が、范を狙って香港にやってきた。その中に、卓越した射撃・格闘・諜報の腕を持つゾーヤ・ザハロフという将校がいた。香港・ホーチミンバンコクプーケットと続く追撃戦で、闇組織や国家安全部、SVRらが闘い、血が流れる。コートは一度は范を確保するものの、カンボジアではぐれてしまう。そこに現れたゾーヤは、自らの部下大半を失っていて、コートと共同戦線を張ることになる。

 

 コートの戦闘級の大活躍は相変わらずだが、グレイウーマンとも呼ぶべきゾーヤの魅力が本書の特徴。800ページが短く感じられるアクションの連続である。とてもあり得ない謀略戦をリアリティたっぷりに描いた本書、さらに続編が読みたくなりました。