新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

夢想家と天才技術者がいて・・・

 戦争を主にテクノロジーの視点から分析し、あくまで客観的な情報から当時起きていたこと、起きたかもしれないことを再現することにかけて、筆者(三野正洋日大講師)は一流の歴史・技術者だと思う。本書は筆者の得意な、第二次世界大戦中に開発・運用された兵器の比較論である。中心に据えられているのは、ナチスドイツの兵器たち。あとがきにあるように「子供の玩具箱をひっくり返したような面白さ」に溢れている。

 

 第二次世界大戦で闘った国の技術的な評価を、筆者は以下のように定めている。

 

・もっとも進んだ技術を持つ国 米国・英国・ドイツ(順不同:以下同)

・その次に位置付けられる国 日本(造船技術は一流)・ソ連(戦闘車両は一流)

・それらに及ばない国 フランス・イタリア

 

 進んだ技術として挙げた3国についても、米国がまんべんなく技術進歩させたのに対し、英国は古いハードウェア技術と新しいソフトウェア技術が融合しているし、ドイツは狂人に近い夢想家が描いたものを天才技術者が創り上げてしまったアンバランスさが特徴だという。

 

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 本書の中からそのアンバランスさの特徴的なものを見て行こう。

 

◆潜水艦(Uボート

 ドイツ海軍の実質的な主力は潜水艦だった。代表的な艦種であるⅦC型を例にとると他国の者に比べて小型、要員少、航続力少、速力やや遅ながら攻撃力は同等だった。大戦後期には水中速力25ノット以上出せる特殊な推進装置や、遠隔操作・自動追尾可能な魚雷も開発している。

 

◇ジェット軍用機

 ジェットエンジンロケットエンジンの開発では他国をしのぐ技術力で、多くの実戦機を産み出した。有名なMe262戦闘爆撃機は、最高速度870km/hを記録、30mm砲4門の破壊力もあって米国の重爆撃機すら屠ることができた。ただ本来本土防空用に使うべきを、夢想家が爆撃機としての運用にこだわり生産現場は混乱した。

 

■重戦車

 どんな敵弾もハネ返し、敵陣をふみにじって進撃する重戦車を夢想家は求めた。戦車は50トンを超えてはいけないと考えたソ連指導者は最後の戦車JS3でさえ47トンに収めたが、1942年に登場したTigerⅠでさえ57トンもある。試作機E100が144トン、マウスに至っては188トンにもなった。輸送すらできず、戦果は確認されていない。

 

 ほかにもV-1、V-2といったミサイルなど、戦後の各国の軍備に影響を与えたものが一杯あります。純粋に技術視点からの比較論、面白かったです。