新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

先端制御技術1940

 著者は東北大学工学部電気工学科卒、海軍造兵中尉に任官し終戦時海軍中佐。戦後松下電器でテレビ事業部技術本部勤務など関西ビジネス界の発展に貢献した人である。表題は「軍艦メカ開発物語」となっているが、内容はもっぱらエレクトロニクス、特に制御系の技術開発物語が主体だ。

 

 要素技術というよりは応用技術、例えば艦内無線をどのように設置するかという実例がある。中には「デング熱」のように防疫に関するものもあって合計33のエピソードが紹介されている。あとがきにあるように、当時は半導体トランジスタはおろか真空管でさえ十分な耐久性・性能を持ったものは入手できない。制御システムの実現には、メカトロニクスではなく固定(ディスクリート)電気回路を使うしかなかった。いくつか興味深いエピソードを紹介すると、

 

(1)潜水艦操縦練習機

 サブマリン・シミュレータである。三次元の操縦には習熟が必要で、単なるハンドル操作だけでなく上下左右の揺れも体感できなくてはいけない。感覚としては、潜水艦映画のセットのようなものである。

 

(2)(主砲)射撃指揮管制装置

 測距儀やレーダーからの距離データ、方位盤からの俯角仰角、旋回角と引金からのデータと入力し記録し、実際の砲塔・砲身の角度を定め発砲させる電子回路。まあ初期のアナログコンピュータと考えてもいいだろう。

 

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(3)機銃射撃装置

 光学的な照準装置からの信号で、機銃座を旋回させ銃身を上下する装置。機銃座そのものが1トンほどの重さがあるのを電力で動かす。駆動用の直流モーターは500~1キロワットほどの出力。

 

(4)砲弾速度測定器

 細いワイヤを張った枠を一定距離話して設置、砲弾でこの2つの枠の中心を射抜く。するとワイヤが切れるので、その切れたタイミングを測定して差を計るというもの。

 

 主砲の発射に関しては、一番多い3つのエピソードがある。よく架空戦記などで主砲の「散布界」が議論されるが、これを小さくする技術というのは初めて知った。連装・三連装の砲を同時に発射すると砲弾が近いところを飛んでいくので、お互いの空気流が干渉して弾道が乱れる。

 

 これを防ぐために連装砲塔だと、片方を発射してわずかに遅らせて他方を発射するというもの。この遅れの最適値を求める努力には脱帽した。今はIoTで簡単にできてしまうこと、この時代の挑戦を勉強出来てよかったです。