新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

経営者が戦史を学ぶ意味

 本書は少し古い(2000年出版)本だが、バブル崩壊後の日本経済、というより企業の迷走を見て警鐘を鳴らすべく書かれたものである。主筆の江坂彰氏は経営コンサルタント、対談相手の半藤一利氏は歴史家である。

 

 冒頭、旧日本軍は情報と補給の重要性を顧みなかったとある。人事にしても戦時になっても年功序列に拘るなど、柔軟な思想ができなかったことを指摘している。ノモンハンで負けた陸軍、ミッドウェーで負けた海軍の例を引き、それでも転換できなかった組織の硬直とTOPの無能さを論じている。

 

 主張しているのは「負けて悔しい」ではなく、今でも旧軍人と同じような発想・思考・行動をしている日本企業の経営者への警告である。企業の大小を問わず、2000年ころには多くの企業が国際競争にさらされていて、経営者は戦時の軍の指揮官の役割を担っているはずだからだ。まず情報の扱い方として、

 

1)成功体験を捨てること

2)読むにあたり先入観をもたないこと

3)複数の違った意見を参照すること

4)100%集まることを期待しないこと

 

 を挙げている。そして、TOPにしかできないこととして、

 

大戦略を描き、儲かる仕組みを作ること

・撤退戦という難事を指揮すること

 

 を示している。俗に撤退戦は名将しかできないというが、今にも逃げ去りそうな将兵の士気を維持して困難な戦闘を行わせる必要があるからだ。

 

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 筆者らが経営の視点での「撤退戦」というのは、レスター・サローの以下の言葉で表されていると思う。曰く、

 

 マネジメントとは、失敗する前に方針を変えるよう説得できること。失敗して変えるのは当然、うまくいっている間に変身できるかにある。

 

 加えて、「経営は(常に)仮説、企業は時代適応業」とも本書にある。海外からの競合が来たからとか、巨大IT企業にしてやられたとか言っているようでは、失敗前に変身どころか、後からでも時代に適応できなかった無能な経営者と呼ばれることになるだろう。このセオリーは、企業だけでなく個人にも当てはまるものだ。

 

 僕自身戦史は大好きだったし、シミュレーションゲーマーでもあった。企業戦略を担当する部門の経験も長い。忙しいTOPに戦史を読めとかゲームをしろとは言いません。せめてそれを集約した、本書くらいは読んでほしいものです。社員を犬死させないためにも・・・。