新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

カルデラ湖が好きな女

 津村秀介の長編小説は60作ほどある。国内の公共交通機関を使ったアリバイ崩しものが大半で、僕の大好きなシリーズだ。そのほとんどを読んでしまって、本棚には最後の作品「水戸の偽証」が残っているだけ。「水戸の偽証」を発表した後、作者が急逝してしまったからだ。

 

 残る1冊をいつ読もうかと迷っているうちに、ある日平塚のBook-offで本書を見つけた。もう読んでしまった作品かどうか、すぐには分からなかったがスマホでこのブログを確認すると、まだ紹介していない1冊だと分かって即購入した。本書の発表は1989年、「宍道湖殺人事件」(1986年)に始まる湖シリーズの1冊である。シリーズとしては、猪苗代湖(1987年)諏訪湖(1988年)に続く4作目。シリーズはその後も、浜名湖・琵琶湖・白樺湖・・・と続いていき作者の代表的なシリーズとなった。

 

 次の「浜名湖殺人事件」で浦上伸介の相棒として前野美保が登場するが、それ以前の作品なので本書では伸介は先輩の谷田実憲と2人で事件を追う。酒好き将棋好きの30歳代の男2人では華はないが、アリバイ崩しの方は本格派だ。

 

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 正月三が日明けの4日、洞爺湖温泉に宿泊していた男が電話で呼び出された後、刺殺体となって発見された。彼は横浜の写真同好会「横浜カトレア会」の新しい会員で、同好会の今回の洞爺湖ツアーをアレンジしていた。不思議なことに被害者の妹も1年前に横浜で刺殺されていて、警察は連続殺人事件と見て捜査を開始する。

 

 殺された妹はカルデラ湖が好きで、恋人と何ヵ所かの湖を巡っていたらしい。捜査に介入した伸介は、彼女が田沢湖十和田湖猪苗代湖を背景に写った写真を手に入れる。殺された男は妹を殺したのは恋人だったと考えて、これらの写真を撮った事物を探そうとし見つけたのだが、逆に殺されたらしい。

 

 ならば犯人は「横浜カトレア会」の一員だと伸介は考えたが、浮かんだ容疑者は事件当夜「北斗星」で洞爺湖に向かっていて、事件の頃には郡山あたりを走っていたはず。伸介は、アリバイを崩すため1週間後の「北斗星」に乗った。

 

 僕ら夫婦も最初の函館旅行の時に乗ったのが寝台特急北斗星」、上野1903発、函館6:44着でした。カメラ同好会の話、鉄道の話、旅行先の話と、僕の大好きなシチュエーションのミステリーです。偶然見つけることができて、良かったです。