新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ロシアの本質は帝国主義

 2日続けて、ロシアを巡る日米の軍事スリラーを紹介してきた。事実は小説より奇なりということわざもあるが、現実にロシア・ウクライナ戦争が起きて1ヵ月になり、国際情勢は激変した。2014年にはロシアのクリミア進駐があり、マレーシア機撃墜騒ぎもあった。あのころ国際社会がもう少し本気でロシア問題に取り組んでいたら・・・という仮説(繰り言?)もある。2015年発表の本書は、今の事態を予測できるインテリジェンスを含んだものだった。

 

 <外務省のラスプーチン>とあだ名された佐藤優分析官ほど、ロシアに詳しく情報発信をしている日本人はいないと思う。本書は、著者がロシア情報の定評のある会員制情報誌「エルネオス」に連載してきた記事のうちから、厳選したエピソードを編纂したもの。海部内閣、森内閣小泉内閣民主党政権から第二次安倍内閣にいたるまでの対ロシア交渉や国際情勢について、筆者なりのインテリジェンスをもってコメントしている。

 

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 基本となる考え方は「ロシアの本質は帝国主義であり、プーチンは生粋の帝国主義者。為政者として年を重ねるごとに、その色合いを強くしている」というもの。行動様式として、

 

・他国のことなど考えず、まず自国の要求を全面的に打ち出す。

・相手が怯み、国際社会が沈黙するなら、強引に要求を通す。

・抵抗が激しく、国際的にも非難されれば妥協する。

・しかし「国際協調」に転じたわけでは、決してない。

 

 というもの。いくつか興味深い話があった。

 

プーチンは2030年くらいになると、中国が脅威になると見ている。

・中国が北朝鮮を自国の「核の傘」に入れ、核開発をやめさせるのは困る。

 

 冷戦終結後、米国が「この線を越えたら許さん」との軍事外交をしてきた。それが出来なくなったのでアフガン・イラン・シリアなどで紛争が起きている。同じ理由でロシアも、帝国主義をむき出しにしてウクライナに迫った。しかし筆者はロシアだけが悪いのではないという。

 

 「ロシアが毒蛇なら、ウクライナは毒サソリ」

 

 なのだそうだ。マレーシア機は、ドネツク付近の親ロシア武装勢力が放った対空ミサイルで墜とされたのだが、ミサイルはウクライナ側が横流ししたものだとある。本件に限らず、ロシアを巡るインテリジェンス活動の裏の裏まで解説してある面白い本です。サイバーセキュリティ対策にも、とても参考になりました。